第9話 違いのわかる男

「綺麗な姉さん・・・、あんた相当だねぇ。わかるよ」


この世界の魔導士は相手の魔力が何となくわかるものだ。

私も魔導士の端くれなのでこの人とか美香の魔力の・・・

質みたいなのがわかる。この人も美香も、ソミュールも

私に言わせれば「おかしいよ、あんたたち」みたいな感じだ。


「それに比べ、あんたは・・・なんだろうな・・・、あんた

 なに何者だ?こんな不思議な感じはもう何年も感じたことは

 ないな・・・」

その男は勇樹君に向かってそう言った。


「俺は俺だよ。人間色々さ。」と笑いながら言った。


「・・・・ジェニエーベル様だ」ソミュールはつぶやくように言った。


その男は驚き

「本物なのか!?い、いや、ミネルヴァ様と行方が分からないはずだ。

 そもそも何故にミネルヴァ様が居ないのだ!」

興奮したように言う。


「本物だ。私が保証する。」ソミュールは真剣なまなざしで言った。


ソミュールが言うならばと、あまり納得していない感じだが、「ふむ」

と少し思案し続けた。

「族長に会わせよう。ハッキリするはずだ。族長はソムリエだからな」


ソムリエと聞いた途端に美香は笑い、勇樹君はキョトンとした。


魔方陣の扉が開いた。ローブの男はドアに先に入り

「勇樹さんもどうぞ」とソミュールがいい、続けて勇樹君、美香。

勿論私も入り全員が入ると扉は消えた(らしい)。


扉に入ると普通の部屋、いや会議室の様なところだった。

その奥に男が座っている。


「ボルドー。大物のお客様だ。本物かどうか確認してくれ」

ローブの男は偉そうに椅子に座っている男に言った。


その偉そうに座っている男はこちらを向くと、


「綺麗な姉さんだな。好きだ。結婚してくれ。」


ボルドーと呼ばれた男がそう言うと同時に、頭の上から雷が現れ、

ボルドーに落ちた。

部屋の中なのに雷が現れ落ちた・・・。


「ファルツ!なにしやがる!いてえじゃねえか!」

男はせっかく族長らしくしてたのにと不満そうに言った。


「ボルドー。お前はサンテミリオン様の血を吸ってただろう。

 同じかどうか確かめてくれ。それが手っ取り早い。」

ボルドーが言った事なんて気にせずにファルツと呼ばれた

ローブの男は言った。


「ここでサンテミリオン様の名前が出てくるのか。大ごとだねぇ。

 ・・・・あぁ、大ごとだ」

少しお茶らけていたボルドーは急に真面目になり、そう言うと続けた。


「青年、血を吸わせろ。そしたらぜ~んぶわかる。あんたが何者かなんて

 ・・・じゃないな。サンテミリオン様の息子かどうかなんてな」


どうやらボルドーは血の違いが判る男らしい。

「親子かどうかなんてすぐわかる。風味でわかる。特にサンテミリオン様の

 血となれば別格だ。あの方の血はまさに至高の逸品だ。

 吸った時に骨に染みわたる豊かなコク。そしてまろやかさ。あの味こそ

 エレガントと言う言葉がふさわしい。それにな・・」


というところでファルツは杖を身構えると

ボルドーは話すのをいったん止めた。そして真面目な顔で話し出した。


「サンテミリオン様は肩こりがひどくてな、たまに俺が吸ってやってた。

 知らないかもしれないので教えておく。俺たち吸血族はな、人間の血を

 吸うが、人間の血なんてメインディッシュじゃねぇ。

 まぁ、人間で言う所の酒みたいなものだ。吸いすぎたら人間様よろしく

 酔っぱらっちまうし、めまいもする。まぁ一日多くてもこれくらいだな」


そう言うとボルドーは両手を合わせ器を作る。

「そうだなぁ、平均的には週に1回飲むかどうかくらいかな。まぁ説明は

 これくらいにして、どうだ?青年。吸わせるか?俺に」


試すような感じでボルドーは勇樹君に言った。


勇樹君は「まぁ献血みたいなものか」といい右腕を前に突き出した。

ボルドーは左腕の肩らへんがいいと言ったので勇樹君は少しのけぞりつつも

上着を脱ぎ背を向けた。


ボルドーは何故か手を合わせ「いただきます♪」っぽく言うと

勇樹君の肩に嚙みついた。


その瞬間、ボルドーは目を見開き驚いたような感じだったが、そっと

眼を閉じ、なにか・・・そう、なにか「至福」を感じさせる顔で

吸い続けた。

一時たち、ボルドーは突然目を見開き、肩から口を放して


「あぶねえ!あぶねえとこだった!飲みすぎて酔っぱらうとこだった!」

そう言うと目を閉じ


「旨いねぇ・・・。本当に旨いなぁ。久しぶりに、本当に久しぶりに

 サンテミリオン様を感じたよ・・・・。」


「おかえりなさいませ、ジェニエーベル様」


そう言うと同時にひざまずき首を垂れた。


勇樹君はもう何度目だよ、こんなこと言うのは・・・と言いたげそうに

勇樹と呼んでくれ、それに「様」もいらない。と言った。


「なるほど、確かに今、ジェニエーベル様の名前を出すと色々と

 面倒なことになりそうですしね」と斜め上を行くような感じでもあるが

 至極もっともの様な事をボルドーは言った。


取りあえず何か食べます?と、とてもフレンドリーな感じで勇樹君に言い

勇樹君もシチューあるのでできればパンがあればいいかな、と言う。


それならばこの辺のババァにでも持ってこさせます、とボルドー。


なんか取り残された感じの、

美香・ソミュール・ファルツ・チルちゃん・ウゾ、そして私。


「ファルツ、外に出て結界を張ってくれ、今日は宴だ。ババァやジジィ達も

 たたき起こせ、そしてジェニ・・・勇樹さんを冥途の土産に拝ませてやれ」


ファルツは「はいはい」といいつつ、それでも嬉しそうにドアを作り外に出た。

美香も「待ってよ、もうちょっとその服見せてよ」と言いながらついていった。



















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