第9話 ドレインの魔法

「その刀を・・・アイテ・・ムボック・・スに・・・」


母に言われるままに俺は刀をアイテムボックスに入れた。

母がいつも身に着けていたペンダント。

銀色に鈍く光る正方形の箱が付いている。


「加納さんの・・・マンションは行った事あ・・りますよ・・ね?

 すぐに準備をしてく・・・ださいませ。可能な限りの・・・物を・・・。

 その・・・ボックスに・・・。」


母はもう私を見ることもなく話している。

俺は少し魔法が解けているのか感情が湧いてくるのがわかる。


母さんと呼んだ。大きな声で。何回も。


「母さ・・・んじゃありませ・・・んよ、ジェ・・・ニエーベ・・・ル様」

「でも、とて・・・も・・・うれし・・・いです。

 とても、・・・とて・・も。

 一緒に帰り・・・たかったな・・・。紫の国・・・に」


母は微笑みながらも、言葉も発することもなく、動くことも

無くなった。




母の魔法が少し残っているのかもしれない。冷静に俺は母の言う通り、

考えられるだけの物をアイテムボックスに入れた。


・・・・。出来るだろうか。やってみる。


俺は母をアイテムボックスに入れようとしたが無理だった。

帰してやりたかった・・・。くそ。


そうか・・・加納さんなら出来るかもしれない。いや、

必ずやってもらう。・・・絶対だ。


母は幾度となく、加納さんはすごい人であることを教えてくれた。

あまりにも異世界系ラノベのような話だったので、いつも

「はいはい」と聞き流していたが・・・。


俺は全ての戸締りをし部屋を出る。


「母さん、またな」


俺は「スズキ GSXーR125」にまたがり、加納さんの所へ向かう。

行きながら、あちらで必須となりうる物を買いそろえた。


加納さんのマンション、というかビルだな。何度見ても。

おれはバイクを止めると入り口に向かう所で止まった。


・・・バイクをアイテムボックスに入れた。

ガソリンも満タンにしてある。

うん。まぁ使えたらラッキー程度で・・・。


母が渡したこのアイテムボックスと母の言葉。

それを見ながら思ってしまった。


異世界へ行くの?俺。


いいや・・・疑ってどうする。

なんで行くのかはあっちに行ってから母の日誌でもみりゃ

いいだろう!母は急げと言ったんだ!あれ?言ったっけ。

まあ、いい・・・行くぞ!


ドアの前に立つと勝手に開いた。

エレベーターに乗ると勝手に動いた。んで、開いた。


加納さんの部屋の前。うん。

勝手にドアが開いた。


中から声がした。


「靴のままでいいよ~」


・・・俺は靴を履きなおした。


「あら勇樹君、久しぶり~♪・・・それともジェニ君でいいのかな?」


相変わらずの、少し綺麗系の女性であることで・・・。

これでヲタクじゃなかったらモテてるだろうに。


というか美香さんも知ってるのね、俺の名前。


「初めまして、ジェニエーベル様。私はコルンと申します。

 以後、お見知りおきを。今はユキちゃんと呼ばれております。」


凄く丁寧な言い回しだ。・・ユキちゃん?・・・え?ふと見ると・・


うぉ!ユキモリが動いてる!喋ってる!


奥に加納さんが座ってる。俺は早歩きで、ズカズカと言うのだろうか。

加納さんの前に立ち、挨拶もせずに言い放った。


「母さんを連れて行く!あんたなら出来るんだろう!?あんたも

 あっちの世界から来た転移者だろう!だったらどうにかしろ!」


「ジェニエーベル様落ち着いてくだされ。今、ベル様は少しお疲れに

 なっておられます。もう少し後からお話をしても」


ユキモリ、いやユキちゃんがそう言ってきた。

めっちゃ敬語じゃん。ジェニエーベルってそんなに偉いの?

まぁロボットと人間だからな・・・。そういった力関係か。


「ジェニエーベル様、お待ちしておりました」

片膝をつき、首をたれ、加納さんは私にそう言ってきた。


「私はこの者たちとあなた様をあちらへ転移させる為に全ての力を、この命を

 使おうと思っておりましたが、ジェニエーベル様がそうおっしゃるならば

 方法を考えましょう。お任せくださいませ」


か、加納さん?


「とりあえずお茶でも飲みましょう、ジェニ様♪」

後ろから美香が俺をつかみ、強引に椅子に座らせた。


美香は加納さん、あ、どっちも加納か。唯さんにめっちゃ怒られた。


「あー、美香さんのような感じでお願いします。・・・慣れないし。

 そういった感じの話し方がいいです。俺」


「ならば・・・」

そういうと唯さんはめっちゃ昔の話し方になった。

少しの間雑談した後に、唯さんが椅子から立ち上がった。


「じゃあ始めるとしようかね!このベル・ジュラックの魔法を

 みせてあげようじゃぁあないか!あーでもミネルヴァの事も

 あるので少しやり方を変えるよ」


・・・ありがとう、唯さん。(ベルって名前だったのか・・・)


唯さんはヒソヒソと美香に話しかけている。美香は驚いたようにと言うか

ワクワクだろうな・・・あれは。大きな声で


「出来るの!?やりたい!私やりたい!」

と言った。嫌な予感しかしない。


どうやら母を転移させるには少し時間差になるらしく

最初は俺と美香さんとユキちゃんで転移となる。

その後に母を転移させるとの事。


唯さんと美香はそれはもうにこやかに話をしている。

「4日後ね!わかった!でも時間経過は一緒なの?腕時計使えるのかな?」

美香がそういうと唯さんはうなずき「問題ない」と言った。


と当時に、唯さんは美香さんに向けて魔法を唱えた。

美香はヘナヘナと座り込んで

「あ~~~~吸われた感じがする。虚脱感。ごめん、もう私先に入って

 倒れてるね・・・。」

美香は、少し目が回ってるんだろう。そういうと

ふらふらと魔方陣の中に入って行ってぶっ倒れた。


「元の量になるには回復薬飲んでも約3日くらいかかるだろうね、

 美香なら。むほほほほほ」

唯さんがそう言うと、ユキちゃんが

「マジですか!どれだけ膨大なんですか!ってかそれを吸う

 ベル様もすごいです!」


あー魔力吸われたのね、美香。

・・・そうか、美香は魔力持ってるんだ。・・・へぇえ。













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