#15
フウマが身を震わせ、脱力して私に覆い被さると同時に彼の耳元で通知を知らせる覆現の振動が私にまで伝わってきた。
「もう。する前にちゃんとメッセージの通知はオフにしておいてよ」
「すまない」
余韻に浸る間もなく、雰囲気を台無しにされて思わず怒った私に彼はおざなりなキスをして、ベッドに腰掛け、覆現を開く。
「まあ、今のフウマが忙しいのは分かるけどさ」
私たちの告発を切っ掛けに国が定めた基準を満たさない義妊クリニックが多く存在するというニュースはセンセーショナルを持って世間に受け止められた。
双子の産み分けの提案、大部屋に乱雑に敷き詰められた義胎の山、院長が義胎妊娠専門医も持たない初期研修を終えただけの名ばかり院長だったことを暴いた私たちのムービーは覆現で特大のバズを巻き起こし、もみじの会の知名度は一気に全国レベルになった。
街頭の活動でも暖かい声を掛けられることが多くなったし、フウマへの公演の依頼も全国各地から舞い込むようになった。
行き詰っていた運動が一気に道開いたのは私もうれしかったけれど、こうしてふたりっきりの時にまで活動が入り込んでくるのはちょっと不満だ。
腹立ちまぎれに私は背にピタリと張り付き、じゃれつきも気にせずに空中で指をスワイプしながら届いたメッセージを読む彼の髪をぼさぼさにしてみたり、ゴムがついたままの縮んだ股間をもてあそんだり。
短く、鋭い舌打ち。
「どうしたの」
フウマが舌打ちするのを初めて聞いて私はちょっと怯える。
「リアル・ディベートの出演依頼だ」
「見せてよ」
覆現を共有してほしいと頼み、送られてきたプロデューサーからの番組資料を見る。
「お母さんが出るのね」
素案と書かれた簡素な番組企画書には出演依頼相手の一覧があり、フウマと彼の母親、吉野イズミの名があった。
「貴方のお母さんってこれまであんまりメディア露出ないよね」
「ああ。ニュース番組ぐらいだな」
「言っちゃ悪いけれど、リアル・ディベートって低俗寄りじゃない。本当に出てくれるの」
もみじの会に入った後に、フウマが出た番組を見てみたけれど、視聴者からのプラスとマイナスの投票によって論者がどんどんと脱落していく討論番組とは名ばかりのバラエティだった。
「さあ。企画書を送ってくるってことは、出演の見込みがあるからだろうな。なにかのネタとのバーター取引だとか」
「どうするの」
「シャワーを浴びながら考えるよ」
股間のゴムをゴミ箱に放り込み、フウマがベッドから立ち上がる。
「そう。行ってらっしゃい」
初めて会ったときからそうだったように致した後の彼をシャワーに見送り、彼の残り香が残るシーツに包まる。
「なんであんなにお母さんの事嫌いなのかしら」
思えば最初の時も、活動の動機は反抗期だって言っていた。親への反発があるのは確かだろうけれど、その一言では収まりきらないなにかがあるような、そんな気がする。
アレコレと理由を考えてみるけれど、しっくりくる推測は思い浮かばない。シャワーから出たら聞いてみようかしらと思いながら、私は眠りに落ちてしまう。
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