番外編1 お祝いのパーティーは盛大に

【オズリンド邸 ダンスホール】


 オズリンド邸にあるダンスホール。

 定期的に祝いごとやパーティーに用いられるこの一室で、本日もまた大きな催しが開催されようとしていた。


「それにしても、すごい賑わいだな」


 いくら広い会場とはいえ、これだけ多くの参加者が集まると圧巻だ。

 オレがアリシアの使用人になってから、結婚するまでの間に出会ったほとんどの人が参加しているんじゃないだろうか。


「一体、なんのパーティーなんだろう」


「あら、グレイ。貴方はまだ何も知らないのね」


 俺が首を傾げていると、そこにアリシアがやってきた。

 普段以上に気合の入ったドレスに着飾り、メイクもバッチリな彼女はとても美しい。


「もうそろそろ教えてあげても良い頃かしら……」


「焦らすのはやめてくれよ、アリシア」


「ふふっ、そうね。じゃあ、答え合わせといきましょうか」


 そう呟いたアリシアは右手を上げて、その指をパチンと鳴らす。

 すると次の瞬間、会場の中心に設置されていたくす玉がパカンと割れる。

 そしてその中から、文字が書かれた紙が垂れ下がってきたのだが……


「なっ!?」


 そこに書かれていたのは――


『祝! 書籍化決定!』


「書籍……化?」


「ええ、そうよ。グレイ、ワタクシと貴方の愛の物語がついに、書籍化する事に決まったの!」


 嬉しそうにそう叫ぶアリシア。

 するとそれを皮切りに、会場中の参加者達が一斉に拍手を始める。

 どうやら、知らなかったのは俺だけらしい。


「書籍化って、なんでまた……」


「それは全て、ワタクシ達を応援してくださった人達のおかげよ。彼らには本当に頭が上がらないわね」


 彼ら、というのは一体誰の事なのだろう。

 でもまぁ、きっといい人達には違いない。


「でも、どこから出版されるんだ? リユニオール書房とか?」


「いいえ。日本という国の小学館という出版社で、レーベルはガガガ文庫というところらしいわ」


「日本のガガガ、文庫……?」


 日本ってイブさんの故郷だよな、たしか。

 そういえば風のうわさで、日本はメディア文化が強いと聞いたことがある。


「詳細については今後、色んな形で伝えていく事になるから。気になる人はチェックしていく事ね」


「なんだか、自分達が本になるなんてむず痒いな……」


 でもまぁ、アリシアが喜んでいるのならいいか。

 俺がそう思っていると、背後からいきなり誰かが抱きついてきた。


「やってね、お兄ちゃん! フランちゃん達が本になるんだよー!」


「おめでたいですね。これはもう完全に勝利確定です」


 振り返るとフランチェスカとイブさんが両脇から俺の腰にしがみついている。

 心なしか、彼女達も普段より嬉しそうな表情だ。


「でも、フランちゃんのカワイイ顔を再現出来る絵師さんなのかなー?」


「全くです。私たちの美しさは、そう簡単には表現できませんから」


 そして本に使われるイラストの心配まで始める始末。

 しかしそれに対しては、アリシアが淡々と言葉を返す。


「フランチェスカ、イブ。その心配は要らないわよ」


「え? どうしてー? そんなに腕の良い絵師さんなのー?」


「ええ。誰よりもワタクシ達のことを可愛く、美しく描ける人が担当してくださるわ」


「ほんと!? わーいっ、やったー! 」


 アリシアの答えを聞いて、ぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねるフランチェスカ。

 だが、アリシアは恐ろしく冷たい表情と声色で……なおも言葉を続けた。


「あら、どうして貴方が喜ぶの?」


「ふぇ? だって、腕の良い絵師さんならフランチェスカも可愛く……」


「…………」


「えっ……? 待って、ちょっと待ってお姉様。フ、フランちゃんは……フランチャンの出番はあるんだよね……? ね?」


「そ、そうですよ! フランチェスカ様はどうでもいいですが、この私の出番だけは確保して頂かないと……!!」


「ははーん、お姉様ったら。書籍版でフランちゃんの方が人気になっちゃう事を怖がっているんでしょ? だから、そんな嘘を……」


 何かに気付いたらしい二人が途端に慌て始める。

 しかしアリシアは視線を逸らし、明後日の方向を見つめていた。


「……最後まで、希望を捨てちゃダメよ。いつか、出番は……ね」


「「……」」


 アリシアがそう呟いた瞬間。

 フランチェスカとイブさんは真っ白な石となり、そのまま砕け散っていった。


「こほん。そういうわけで、ワタクシ達の活躍を記した書籍がもうじき発売されるわ。興味のある人は必ず、購入してちょうだい」


「よ、よろしくお願いします」


 締めの言葉として、俺はアリシアと共に頭を下げたのだが……

 次の瞬間、世界が真っ暗に包まれる。


「……んんうっ?」


 そして気付いた時には、俺の視界には見慣れた天蓋が広がっていた。


「あれ……?」


 ベッドの上で状態を起こし、クラクラする意識を覚醒させる。

 ふと横を見ると、アリシアが可愛らしい寝顔ですぅすぅと寝息を立てていた。


「夢だったのか……?」


 それにしては妙にリアルな夢だった気がする。

 

「むにゅ……グレイ……しょせきか……」


「……ははっ、アリシアも同じ夢を見ているのかな」


 俺はアリシアの頭を優しくひと撫でして、再び体をベッドに預ける。

 もう一度アリシアと同じ夢の世界に舞い戻るために。



*********************************


 お読みくださり、ありがとうございます。

 作中では夢オチでしたが、ところがどっこい夢じゃありません。

 この度、本作は小学館のライトノベルレーベルであるガガガ文庫様にて書籍化する事が決定致しました!

 Web版との違いとして、書籍版はアリシアとのイチャラブメインのゲロ甘いラブコメとして仕上がっています。

 イラストをご担当してくださるのはドチャクソカワイイ女の子を描く事に定評のあるBcoca先生となります!

 発売日は2023年7月19日を予定しております。

 情報に関しては今後、公式サイト様や作者Twitterにてご共有していきますので、応援してくださる方は何卒よろしくお願いします!


作者Twitter(@aisaka3290)

Bcoca先生(@co2_0301)

ガガガ文庫公式サイト

https://gagagabunko.jp/index.html

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