第96話 どやっ!最高の初体験だったわよ!!

【オズリンド邸 グレイとアリシアの部屋】


 チュンチュン。チュンチュン。

 窓の外では朝日が上り、小鳥達が囀っている。


「んぅ……グレイ……」


「……アリシア」


 裸のままシーツに包まり、俺の名前を寝言で口にするアリシア。

 俺はそんな彼女の頭を愛おしく撫でる。


「なんとか耐えきったぞ」


 もう一生分はヤったような気がするけど、これでまだ一日。

 今後、もっとスキルアップしていかないと身が持たないな。


「なぁ、ゲベゲベ」


「(ディランニクラベタラズットウマカッタヨ)」


「……何か言いたげだな。まぁ、いいけど」


 俺はゲベゲベの頭もポンと叩き、ベッドから立ち上がる。

 とりあえず水が飲みたい。もうすっかり、体中の水分が枯渇してしまった。


【オズリンド邸 食堂】


「グレイ君、昨晩はお疲れ様だったな」


「お義父様、おはようございます」


 俺が食堂に足を踏み入れると、お義父様が新聞を広げながらお食事の最中。


「おはよう。良かったら君もどうだ?」


「いえ、後でアリシアが起きた時に一緒に取ります。なのでここは、お水だけ」


「ははははっ、そうだな。無粋な事を言って済まなかった」


 俺がお義父様の正面に座ると、朝の食事担当のメイドさんが水を運んできてくれた。

 それを受け取ると、メイドさんは俺の顔を見つめながら……もじもじと。


「……グレイさんって、凄いんですね。私、お嬢様のあんな声……初めて聞きました」


「え?」


「馬並だとか、激しすぎて壊れるとか……素敵です。ぽっ」


 そう言い残し、去っていくメイドさん。

 俺が唖然としていると、お義父様がクスッと笑う。


「防音工事を今週中に依頼しておこう。まさか、屋敷全体にまで二人の嬌声が響き渡るとは思っていなかったからね」


「……」


 俺は恥ずかしさのあまり、コップを握りしめたまま俯いてしまう。

 まさか聞かれていたなんて……それも、屋敷中の人達に。


「しかし、見事だよグレイ君。私は妻と初夜を過ごした後、一週間は立ち上がれないほどに衰弱したのだが」


「一応、鍛えておりますので」


「それは頼もしい。だが、くれぐれも無茶はしないように。ちゅっちゅモンスターの欲望は尽きる事を知らないからな」


 それはもう、しっかりと心得ているとも。

 お義父様の忠告がなければ、俺は今頃ミイラになっていたかもしれない。


「おっと、そんな事よりも。グレイ君、君の叙勲の日程が正式に決まったよ」


「それは本当ですか!?」


「ああ。実はここ最近の間に継承権に変動があって、今や残っているのは11人のみ。明日に行われる継承戦で、決勝戦に進む10人が決まる。それで君は正式に金騎士として認められるというわけだ」


「残り11人……もうそんなに減っていたんですね」


 アリシアが一気に3位まで駆け上がってくれたので、下位の方はもうちっとも気にしていなかったなぁ……って。


「あれ? もしかして残っている11位は……フランチェスカ様ですか?」


「ああ、その通りだ。そして明日、第8位のスプリイ様と継承戦を行う」


 いつの間にか、そんな事になっていたのか。

 それじゃあフランチェスカ様とイブさんは、ここが大勝負だな。


「でも相手は9位か10位じゃないんですね」


 エドとオウガさんが仕えているという継承候補者。

 11位のフランチェスカと戦うのなら、どちらかかと思ったんだが。


「その2人は王族でも有名な悪童だからな。恐らく、面倒な継承戦を姉であるスプリイ様に押し付けたのだろう」


 そう言えば、エドがそんなような事を言っていた気もする。

 特にエドは闘いが好きみたいだから、主人には不満たっぷりの様子だったし。


「結果はどうあれ、この継承戦で上位10人が確定する。3日後、王城で陛下が金騎士の叙勲をしてくださるそうだ」


「おお……ありがたいです」


 今の俺の胸には、未だに見習い銀騎士のバッジが輝いている。

 これがいよいよ、金色になる日が来たのだ。


「式典に必要なモノの準備はアリシアが進めているようだから、後はあの子を頼りなさい」


「はい、分かりました」


「それが終われば結婚式。式が終われば、決勝戦が始まる。忙しくなるだろうが、2人で力を合わせて頑張りなさい」


 お義父様はそう告げると、食事を切り上げて食堂を出ていった。

 俺はそんな彼に深く頭を下げ、コップの水を一気に飲み干す。


「よしっ! 頑張るぞ!」


 気合と覚悟を新たに、気を引き締める。

 そして最愛の人を起こす為に、俺も食堂を飛び出すのだった。


【オズリンド邸 グレイとアリシアの部屋】


「ふぅん? あのフランチェスカが継承戦ねぇ」


「ああ、そうらしいよ」


 寝起きのアリシアの髪を櫛で梳きながら、俺はお義父様から聞いた話を伝える。

 アリシアは最初こそ意外そうにしていたが、特に気に留めている様子もない。


「勝敗はどうでもいいから、さっさと決着を付けて欲しいわね」


「俺は勝ってくれた方が嬉しいけど」


「ふふっ、グレイは優しいわね」


 クスクスと笑い、アリシアが化粧台の前から立ち上がる。

 それから、俺の頬を掴んでちゅっと口付けをしてきた。


「大好き♡」


「急にどうしたんだ?」


「んー……理由がないと、こういう事をしちゃダメ?」


 ぎゅっと抱き着いて、俺の胸にスリスリと頬ずりをしてくるアリシア。

 甘えん坊モードのスイッチが入っているようだ。


「ダメじゃないけど、えっちな事はもうしないよ」


「ええー!? 寝起きの一発、イっときましょうよ」


「夜の為に今は休憩中だからさ」


「ぶぅー」


「ここで我慢した方が、夜にもっと気持ちよくなれるよ」


「うん。じゃあ我慢する」


 渋々と言った様子で、アリシアが俺から離れる。

 そんな姿も可愛いと思いつつ、俺は前々から気になっていた疑問を訊ねる事にした。


「なぁ、アリシア。ひとつ確認しておきたいんだけど」


「あら、急に何かしら?」


「決勝戦の事なんだけど……これから、どうするか決めているのか?」


「……それはつまり、王位を目指すかどうかって事よね?」


「うーん。そうねぇ」


 俺がコクリと頷くと、アリシアは顎に手を当てて黙り込む。

 金騎士になって結婚するという目標が達成された今、わざわざ苦難の道を進む必要はないわけで。

 決勝戦は途中で辞退してもいいのではないかと、俺は思っている。


「ぶっちゃけ、ワタクシは王位になんか興味がないの。この先の人生、貴方と一緒にイチャイチャしながら……産まれてきた子供達を育てる事に集中したいし」


「だろうなぁ。俺も同じ意見だよ」


「それに、ワタクシだけでも最低10人は子供を産む予定だもの。将来、可愛い子供達が王位継承権を巡って争い合うのは見たくないわ」


 ああ、そういう問題点もあるのか。

 ならばなおさら、王位に就くなんて考えたくもなくなる。


「ただ、フランチェスカが王になる事だけは避けたいわね。あの子に様付けなんて絶対に嫌だし……最悪、貴方の事を無理やり奪われかねないし」


「あははは、その時は頑張って王位を狙おう」


 それもこれも、明日の継承戦の結果次第だ。

 フランチェスカ様とイブさん。2人には頑張って欲しいけど……


「あ、そうだ。せっかくだから、フランチェスカ様達の応援に行かないか?」


「……え? 本気?」


 アリシアの顔がどんどん不機嫌になっていく。

 心底嫌だと言いたげな表情である。


「じゃあ、やめておくか」


「ええ、そうしましょ。あの子の応援に行くくらいなら、貴方のおち◯ぽでイキまくりたいもの」


「それもどうかと……」


「「ちょぉーっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」


 バァーンと、蹴り破られる部屋の扉。

 そしてズカズカと入り込んでくるのは、今まさに話題に出ていたフランチェスカ様とイブさんの二人組であった。


「へいへいへいへいへいっ!! フランちゃん達が必死に継承戦を戦っている間に、なぁーにを婚約発表なんかしちゃってるわけぇ!? 舞踏会にも誘われなかったしぃ!?」


「先程メイドさん達から聞きましたよ!! 一晩中パコパコハメハメぐちょぐちょねちょねちょズコズコパンパンしやがってんですよねコンチキショー!!!」


「「うわぁ……」」

 

 俺もアリシアも、面倒臭い事になったなーと冷や汗タラリ。


「酷いよアリシア姉様!! フランちゃんに内緒でお兄さんとヤっちゃうなんて!!」


「どうだったんですか!? レビューをお願いします!!」


「レビューって……」


「ええ、すっごく気持ち良かったわよ。初めてが痛いなんて嘘ね。快楽の方が圧倒的に上だったもの」


「「!!」」


「アリシア!?」


「まずはね、ディープキスから始めたの。お互いの唇を重ねて、舌で互いの口内を犯し……蹂躙しながら唾液を吸い取り合う。そうしているとね、まるで頭が直接侵されているような感覚になって……ポーッと全身がアツくなってくるのよ」


「「ゴ、ゴクリ……!」」


「グレイの指が肌に触れるだけでも気持ちいいのに、それがワタクシの敏感な箇所を弄った瞬間……頭が真っ白になって。ふわふわとした、幸せな気持ちで体も心も満たされて」


「「……っ!!」」


「そんな朦朧とした意識の中、ワタクシの体の中に入ってくる逞しいモノ。あまりの大きさでグリグリと押し広げられていく大切な場所……でも、それがちっとも苦しくない。だって、今まさにワタクシはグレイの女にされている。彼専用のメスになっていると体に刻み込まれていく感覚……堪らないわ」


「「ずるいっ! ずるいずるいずぅぅぅぅうるぅぅぅぅぅいいぃぃぃぃぃいぃっ!!」」


 アリシアのレビューを聞いて、フランチェスカ様とイブさんはその場で仰向けに転がり、ジタバタと両手両足を動かす。

 おもちゃを買って貰えなかった子供のような醜態である。


「そして遂に、一番奥でグレイが熱い◯液を放ったの。その時、ワタクシは過去最高の絶頂と共に確信したわ。ああ、ワタクシはこの人の子供を産むんだわ。今まさに、グレイに孕まされたんだって」


「孕ま……!?」


「間違いないわ。ワタクシのお腹にはもう、2人の愛の結晶が宿っているのよ」


 自信満々に言ってのけるアリシア。

 俺としては寝耳に水の話だが、アリシアはかなり自信があるらしく……恍惚の表情で自分のお腹を撫でている。


「この感じ……男の子ね。いや、男と女の双子かしら?」


「ええ!?」


「「うぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬっ!!」」


「そういうわけだから、貴方達の出る幕なんかないの。世界で一番大好きな人と、頭バカになるくらい気持ちいいトロットロえっちをする機会は……ね?」


「「ふ、ふぇぇ……」」


 しまいには泣き出してしまうフランチェスカ様達。

 アリシアはそんな2人を見下ろしながら、淡々と言葉を続ける。


「悔しかったら、王位に付いてみなさい。そうすれば、ワタクシからグレイを奪い取る事が出来るかもしれないわよ?」


「じょ、上等だぁー!! フランちゃんを甘くみちゃってー!!」


「必ずや上位10位以内にランクインし! 決勝戦で貴方達をボコボコにして差し上げますからー!!」


 涙目の2人はスクッと立ち上がると、アッカンベーとおしりペンペンをしてから部屋を飛び出していった。

 いやはや、本当に慌ただしいな。


「……困った子達ね」


「優しいな、アリシアは」


「え? なんのこと?」


「ああやって焚き付けて、闘志を燃やすように仕向けたんだよな」


 その為に昨夜の情事の事を話されるのは恥ずかしかったけど。

 あれもまたアリシアなりの不器用な気遣いなわけで。


「そうなのかしら? 自分じゃ分からないわ」


「でも俺は分かるよ。だって俺は、アリシアの通訳係でもあるんだから」


「敵わないわね、もう」


 アリシアが俺に抱き着いてくる。

 そしてすかさず、俺の首筋にちゅっちゅと唇を吸い付けてきた。


「……一回だけいいの。ねぇ? いいでしょ?」


「しょうがないな」


「あーんっ♡」


 おねだり上手なアリシアを、俺はベッドへと押し倒す。

 駄目だ。我慢しなければいけないと分かっていても、溢れ出る欲望の火を抑えきれそうにない。


「日が高い内からなんて、いやらしい子だよ」


「んふふふ……そういう子はキライ?」


「ううん、大好きだよ」


「ワタクシも♡」


 唇を重ね、服を剥ぎ取り、俺達は互いの体を求め合う。

 一回だけ。

 そんな建前だけの約束は……


「「あああああ~~~~~~っ♡」」


 当然のように果たされる事は無かった。



【グレイとアリシアの結婚式まで残り4話】



【ネクストグレイズヒント】

・負け惜しみ~♡

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