第95話 あんっ♡ ゲベゲベが見ているのに♡

【オズリンド邸 玄関】


 アリシアへのプロポーズも無事に成功し、舞踏会での楽しい時間を終え。

 俺達は無事にオズリンド邸へと戻ってきた。


「……グレイ。ワタクシ、先にお風呂に入ってくるわ」


「あ、うん。えっと……」


「ワタクシが上がったら、貴方が入浴して。その後は……分かるわよね?」


「……ゴクッ」


「じゃあ、また後で」

 

 廊下を駆けていくアリシア。

 いよいよ、俺は今夜……大人になるのか。


「……はぁ」


 勿論、嫌じゃない。

 むしろ嬉しくて堪らないのだけど……不安なのだ。

 果たして上手くやれるのか。これがきっかけでアリシアに嫌われたりしないだろうか。

 そんな事はないと分かってはいても、不安を隠せない。


「お? どうしたグレイ? 舞踏会で失敗でもしたのか?」


「モリーさん!」


 俺がうなだれていると、通りかかったモリーさんから声を掛けられた。


「って、そんな雰囲気じゃねぇか」


「……モリーさんこそ、どうしたんですか?」


 俺は顔を上げて驚いた。

 というのも、モリーさんが今にも死にそうな顔をしていたからだ。

 目の下には大きなクマを作り、顔全体が土気色……


「ははは、聞いてくれるか? 実はその……俺もお前に負けてられねぇと思ってさ。あの人に告白しようと思っていたんだよ、俺」


「えっ!?」


「でも……切り出す前に、もう私の事は忘れて欲しい的な事を言われてさ」


「それは……辛かったですね」


「ああ、辛かったよ。それで俺、何も言えなくて……呆然としながら屋敷まで戻ってきたんだ」


「……」


 まさかそんな事になっていたなんて。

 俺が知る限り、二人は上手くいっていたように思えたが。


「だけど、今になって思うんだ。あの時、本当に辛かったのは俺じゃなくて……きっと彼女の方だったんだって」


「モリーさん……」


「情けねぇよな。惚れた女が何かに怯えて、勇気を振り絞って俺を遠ざけようとしているのを……自分だけが傷付いたと思い込んで。無様に逃げ出したりして」


 涙をこぼしながら、モリーさんは悲しそうに言葉を紡ぐ。

 後悔して。悔しくて。今にも張り裂けそうな想いを、吐き出していた。


「でもよ、一番クソなのは……それが分かっているのに、何も出来ねぇ自分の無力さに腹が立つんだ! 俺は一体、どうしたらいいんだよ……!」


「……分かりませんよ」


「っ!! なんだと!?」


 激昂したモリーさんが俺の胸ぐらを掴む。

 だけど、俺は意にも介さずに言葉を続ける。


「でもね、1つだけ分かる事があります」


「!!」


「ここで貴方がウジウジと泣いていても、何も解決しない。本当に彼女を救いたいのなら、失敗を恐れずに会いに行ったらどうですか?」


「このっ……!!」


 拳を振り上げるモリーさん。

 しかし俺は抵抗しない。殴りたければ殴れば良い。

 でも、この人はそんな真似をしないと――俺は信じていた。


「……悪い、グレイ」


 やはり、モリーさんは俺を殴らなかった。

 彼はそのまま拳を引っ込め、俺の胸ぐらから手を離す。


「謝るのは俺じゃなくて、あの人に……でしょう?」


「ああ、そうだな。お前のおかげで気持ちが吹っ切れたよ」


 モリーさんはゴシゴシと涙を拭うと、ニカッと笑う。


「命に変えても、俺はあの人を笑わせてみせる」


「はい、その意気です」


「ああ、ありがとうなグレイ!! お前もがんばれよ!!」


 吹っ切れた様子のモリーさんは、屋敷を飛び出していく。

 その背中を見送りながら、俺は思う。

 今の彼ならばきっと大丈夫。

 何もかもが上手くいくだろう……と。


【オズリンド邸 廊下】


 モリーさんを見送ってから二時間後。

アリシア様が先に入浴を終え、続いて俺が入浴。

風呂上がり、覚悟を決めてアリシアと俺の部屋へと向かっていると……


「あ、お義父様!」


「グレイ君か」


 偶然にもお義父様とすれ違う。

 彼は俺の顔から今夜の決意を見抜いたのか、フッと笑った。


「お前達の部屋には今晩、誰も近づかないように言いつけておく。もっとも、すでにアリシアが手を回しているだろうがな」


「あははは……」


「グレイ君よ、これは父としてではなく。1人の男……先輩としての忠告だ」


「は、はい? なんでしょうか?」


「……とにかく攻めて攻めて、攻めまくれ」


「えっ」


「アリシアは恐らく、我が妻以上の怪物だ。主導権を握られれば……恐らく一滴残らず絞り尽くされるだろう。かつての私もそうやって、何回も干からびたものだ」


 真剣な顔でそう言ってくるお義父様の顔を見て、俺は思い出す。

 さっきの舞踏会での、アドルブンダ様の無様な姿を。


「よいか? それを決して忘れるな。こちらが一度果てるまでに、相手を10回はイカせなければ……死ぬぞ?」


「わ、分かりました!!」


「うむ、頑張るがいい」


 遠い目をして、廊下の奥へと消えていくお義父様。

 その背中の……なんと大きく、逞しく見える事か。


「や、やるぞ……!!」


 俺は覚悟を決め、両頬をパンパンと叩く。

 そして、アリシアの待つ部屋の扉を開いた。


【オズリンド邸 グレイとアリシアの部屋】


「……待っていたわよ」


「うん……」


 部屋に入ると、ベッドの縁に腰掛けているアリシアと目が合う。

 まだ乾ききっておらず、しっとりとした髪。

 ほんのりと赤い頬。色々と透け透けで危ういネグリジェ姿……

 俺のジュニアは一瞬にて戦闘態勢となった。


「もう……♡ 焦りすぎよ♡」


 そんなガチガチボーイを視線でロックしたアリシア。

 赤い舌をチロリと出して、妖艶に舌なめずりをしている。

 それを見て、またピクンとボーイが反応してしまう。

 ええい、狼狽えるな我が息子よ!! まずは主導権を握らなくては!!


「アリシア、まずは……」


「隣に座って」


「いや、まず……」


「座って」


「はい」


 主導権を握ろうと強気でいったのだが、呆気なく撃沈。

 俺は言われるがまま、アリシアの隣に腰を下ろす。

 うっ……!! この甘い匂い……!!


「んふふふっ……♡ グレイ……♡」


 俺の肩に頭を預け、甘えてくるアリシア。

 俺はそんな彼女の頭に手を回し、ナデナデしてみる。


「今日のプロポーズ、とっても嬉しかったわ」


「遅くなってゴメン。もっと早く、指輪を渡しながらプロポーズしないといけなかったのに」


「だからマリリーに殴られたのよね。でも、だからってまさか……大伯母様のところに行って、この指輪を手に入れて来るなんて」


 そう言いながら、アリシアが俺に指輪を見せてくれる。

 指輪の出どころが分かるという事は、アリシアもこの指輪を見た事があったのだろう。


「でもどうせ貴方の事だから、この指輪の価値なんて知らないんでしょう?」


「エルフ族の至宝だっていうのは聞きましたけど」


「そうね。簡単に言うと……この指輪だけで、リユニオールの土地の半分は買収出来るくらいかしら」


「……ファッ!?」


 この指輪1つで、それほどの値打ちがあるのか!?

 にわかには信じられない!


「いやいやいや、だってこれ……ルビーでしょう? いくら大粒とはいえ、流石にそこまでは」


「違うわよ。これはね【エルフの涙】と言って……何千年も掛けて、数百人のエルフが魔力を込め続ける事で結晶化した宝石なの」


「何千年……? 数百人?」


「それに、この指輪の本当の【秘密】は……」


 アリシアは指輪に付いている宝石に口付けをする。

 そしてそのまま、ちゅーっと何かを吸い取るように唇をすぼめた。


「何を……?」


「んー……」


「あっ!」


 あんなにも赤かった【エルフの涙】の色がどんどん消えていき、ダイヤモンドのように無色の宝石へと変化していく。

 そうやって完全に無色になったところで、アリシアは宝石から口を離した。


「んーっ」


「あっ!」


「ちゅー」


 それから続けて、アリシアは俺に口付けをしてくる。

 拒む理由もないので受け入れたが、その瞬間……アリシアが口の中に舌を入れてきた。


「~~~~~っ!?」


 瞬間、電流のような快感がゾクゾクと俺の口内から全身へと駆け巡る。

 違う。明らかに今までのキスとは何かが違っている。

 俺の中の何かがアリシアに吸い取られ、逆にアリシアの口から俺の中に何か熱いモノが流れ込んでくるようだ。


「んっ……ちゅっ、れろ……じゅぷ」


「ぷはっ!? アリシア、今のは一体……?」


「ん~~~♡ 内緒よ♡」


 唇を離し、ほくそ笑むアリシア。

 この顔は何か悪いことを企んでいる時の表情だが……


「いいよ、教えてくれなくても」


「あら、いじけちゃった?」


「そうじゃないさ。すぐに、自分から白状させてやる」


「きゃっ♡」


 俺はアリシアを抱きしめるようにして、ベッドに押し倒す。

 枕の近くに寝かされていたゲベゲベが、衝撃でグラグラと揺れる。


「(ツイニコノヒガキタ……!! キタゾ!!)」


「あん、だめぇ……ゲベゲベの前なのに」


「(じぃーっ)」


「その方がいいんじゃなかったのか?」


「そうだけどぉ……むぐっ!?」


 俺は問答無用でアリシアの唇を奪いながら、空いた手で彼女の体に触れる。

 お義父様の助言通り、とにかく攻めまくらなければならない。


「んはぁっ……グレイ、待って、今ちょっと……んんんんんっ♡」


 下着の中に手を滑らせた瞬間、アリシアの体がビクビクと跳ねた。


「グレイ……そこぉ」


「ここがどうかした? 随分と物欲しそうだけど」


「意地悪、しないでぇ……♡」


 快感に身をよじりながらも、腰はヘコヘコと動きながら……俺の指に気持ちのいい部分を押し当てようとしてくるアリシア。

 もう欲しくて堪らない、と潤んだ瞳が訴えかけてきている。


「……アリシア、好きだ」


「あっ♡」


「大好きだ。愛してる」


「あっあっあっあっ♡」


「だから……お前の全てを俺のモノにする」


「……うん♡」


 覆い被さったまま、下着をズラし……俺は遂に一線を越える。

 そして俺は苦節18歳にして遂に童貞を卒業し、アリシアもまた処女を失った。

 ああ、愛する人と繋がる事がこんなにも幸せだったなんて。

 俺は感動のあまり、涙を流してしまいそうになった。

 それでも俺は必死に堪え、アリシアを満足させるべく頑張った。

 慣れないながらも献身的に、持てる力の全てを使って……!!


「アリシア……痛くなかった?」


「ううん、ちっとも」


 全てが終わり、裸のまま二人はシーツの中で抱き合っている。

 事後のイチャつきタイムというわけだ。


「良かった。でも、今度は今日以上にアリシアを気持ちよく出来るように頑張るよ」


 俺はアリシアの頭を撫でながら囁く。

 初戦はそれなりに上手くやれたが、反省点も多い。

 次はもっと腕を磨いて……


「今度?」


「……ん?」


「今からの間違いよね?」


「……んんん?」


 ガシッとアリシアに掴まれるジュニア。

 いや、待って!? おかしくないかコレ!?


「アリシア? えっと……さっき、俺頑張ったよね」


「ええ、いろんな場所を弄んでくれて。激しくも優しく突いてくれて。もう何回イったか分からないくらい気持ちよかったわ♡」


「そうだよね。それで体力尽きて、今こうやってピロートークというか! 今夜はお疲れーみたいな流れだったよね!?」


「うん。でも……グレイはまだ3回しかイってないし」


 そりゃあ俺が3回イク間に30回はイカせようと頑張ったもの!!


「だから今度は、ワタクシが攻める番♡ 口とか胸とか、試したい事がいっぱいあるの♡」


「ひっ!?」


「まだまだ夜は長いわよ、グレイ♡ 大丈夫、たとえ体力が尽きても……ワタクシがいくらでも回復させてあげるから♡」


 シーツを引っ剥がし、俺に馬乗りになるアリシア。

 ああ、この体勢から見るアリシアの体も素敵だ……じゃなくて!!


「思う存分、たぁっぷりと出してね♡」


「ああああああああああああああっ!!」


 結局のところ、俺がアリシアに優位立てるはずもなく。

 この日は一晩中、アリシアの底知れない欲望に飲み込まれ。

 俺は猿になった。もう、とにかくアリシアの体に溺れた。

 二人してグチャグチャのドロドロに溶け合ってしまいそうなくらいに、互いの体液でぐっちょぐちょになってしまった。


「はぁっ、はぁっ……グレイ」


「はぁっ、はぁっ……アリシア」


「「……愛してる」」


 そして二人は深く繋がり合ったまま、もはや何回目になるのか分からない絶頂と共に意識を失う。


「(オツカレサマ……!)」


 そんな主人達の痴態を、ゲベゲベはただひとり……満足そうに眺め続けていたのだった。

 



【アリシアに新たな生命が宿りました】


【主任さん(30)に新たな生命が宿りました】


【グレイとアリシアの結婚式まで残り5話】

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