第83話 初体験しちゃうわよ♡
【王城 医務室】
レイナ様とアリシア様の闘いに決着が付いてから数十分後。
俺は医務室に運ばれ、治療を受けたレイナ様の傍らに控えている。
「うっ……ここは?」
「王城の医務室ですよ」
ベッドの上で目を覚まし、キョロキョロしているレイナ様に声をかける。
俺の方へ顔を向けた彼女は微笑んだが、すぐに何かに気付いたように顔を青ざめた。
「……そっか。レイナ、負けちゃったんだ」
「はい。残念ながら」
「嘘付き。アリシアの方を応援していたんでしょ?」
「……ええ」
俺が正直に答えると、レイナ様は寂しそうに顔を背けた。
「レイナ様……」
「どうして?」
「え?」
「どうして、アリシアを応援したの?」
消え入りそうなほどにか細い声。
主にこんな想いをさせてしまった事に深い後悔を覚えるが、ここで誤魔化すような真似はしたくなかった。
「俺はレイナ様を愛していました。すごくすごく、誰よりも大切だと思っていたんです」
「……」
「それなのに、いつも胸の奥で何かが引っかかっていて。自分でもそれが何か分からずに、悩んでばかりでした」
騎士失格という自覚はある。
どれだけ非難されても構わない。
「ですが、アリシア様を見た瞬間。俺は……そんな自分のモヤモヤがどうでも良くなって。ただ、あの人を好きだって気持ちが溢れてきて」
俺はアリシア様が好きだ。
アリシア様に心の底から惚れてしまったんだ。
だから、俺はその心に従っただけ。
「……俺はアリシア様を愛しています」
「そう、よく分かった」
レイナ様はそう言うと、再びこちらを振り向いてきて……俺の手を握る。
「これは……何を?」
「……記憶を失っても、また再会して二度目の恋に堕ちるなんて。最初から勝ち目なんてなかったんだね」
ポワッと俺の手を握るレイナ様の右手が青い光を放つ。
次の瞬間、俺の脳内に……今まですっかり抜け落ちていた記憶が戻ってくる。
「あっ」
「……ごめんね」
レイナ様が手を離すのと同時に、俺は駆け出していた。
ああ、そうだ。何もかも全部、思い……出した!
「くそっ! くそぉっ!!」
どうして忘れていたんだろう。
こんなにも、こんなにも大好きなあの人との大切な思い出を。
屋敷の廊下で初めて出会った日。
翌日、中庭で交わした会話。
二人きりのダンス。
ユフィーンでの温泉旅行。
グラント入刀。
ドラガン様との死闘。
どれも、俺にとってはかけがえのないアリシア様との記憶。
「アリシア様!!」
「っ!? グレイ!?」
俺はアリシア様が控えている部屋の扉を開いた。
決闘後、汗を流したいと王城の大浴場を借りていたアリシア様は……今は部屋で着替えをしようとしていたらしく、黒の下着姿だった。
「ちょ、ちょっと待って! あのあのあの、これはね、その……!!」
俺が部屋に入ると、アリシア様は顔を赤くしながら激しく狼狽える。
「過酷な修行で筋肉が付いたせいかしらね! ほ、ほんのちょっとだけ……ほんのちょっとだけなのよ!?」
どうやら、以前に比べて肉付きが良くなっている事を恥ずかしがっているようだ。
たしかに、見覚えのある黒の下着は上下ともにキツキツになっていた。
はち切れそうなブラ。パンツはわずかにお尻の肉がパンツに食い込んでいる。
「この程度なら、すぐに元通りになるから、それで……ひゃっ!?」
「……アリシア様」
俺はすぐにアリシア様を抱きしめる。
そしてすかさず、その顎に手を添えると――
「んっ……」
「むゅっ……♡ あっ、キス……♡」
その桜色の唇を奪う。
俺が金騎士になるまではと封じていた……口付けだ。
「全て、思い出しました。アリシア様、すみませんでした」
「……ううん、いいの。おおよそのことは察しているから」
アリシア様は瞳に涙を浮かべながら、そっと俺の腰の妖刀ちゃんに手を添える。
「この子との話し合いは、また今度ね」
『え!? ちょまっ……ちべたいっ!? やめっ、ぎゃあああああああ!!』
パキパキパキパキと凍り付いていく妖刀ちゃん。
どうやら、邪魔者を一旦排除したかったらしい。
「ようやく、辿り着いたわ」
「はい。でもまさか、アリシア様が決めるとは」
「ふふっ、いいでしょ? 恋人同士、力を合わせないと」
得意げに笑みを見せるアリシア様。
その顔があまりにも可愛いので、俺はもう一度唇を奪う。
「あんっ♡ 急に、ひどいわ♡」
「嫌でしたか?」
「ううん♡ もっと、ちゅーしてぇ♡」
アリシア様は両手を俺の首に回してしがみついてくる。
むにむにと胸を押し付けられて気持ちいいが、今はそれよりもキスが先決だ。
ちゅっちゅ。まずは啄むようなキス。
それから、唇を重ね合わせると……アリシア様の舌が俺の唇に触れてきた。
「ちゅっ……れろっ♡ ちゅるっ、ちゅずるるるるるっ♡」
俺が口をわずかに開いて受け入れると、それはもうすごい勢いでアリシア様の舌が俺の口内を蹂躙してきた。
俺の舌に絡みつき、唾液の一滴たりとて逃さないというほどの吸引力で吸い付く。
「っ!!」
「やぁんっ♡」
辛抱たまらなくなり、俺はアリシア様をベッドへと押し倒す。
するとアリシア様は、くねくねと体をよじらせながら……
「ダメ、ダメよグレイ……! 初めてはおうちのベッドがいいのぉ♡ ゲベゲベがいないとやーなのぉ♡」
そんな事を言う割に、アリシア様の両足が俺の腰をガッチリと挟む。
どうやら、俺を逃がすつもりはないらしい。
「……アリシア」
「あっ♡ 呼び捨て……♡ 騎士の分際で主人を呼び捨てするなんて。一介の騎士がそんな真似をして、どうなるのか分かっているの?」
頬を赤らめながら、一気に捲し立てるアリシア様。
俺はそんな彼女の頬に手を添え、愛おしむように撫でる。
「分かっていますよ。『でも、騎士じゃなくて恋人としてなら構わない。これからワタクシをメチャクチャに愛して』と言いたいんですよね?」
「………うん♡♡♡」
アリシア様の紅い瞳の奥に、ハートマークが浮かび上がる。
もうすっかり、準備万端らしい。
「アリシア……愛してる」
「ワタクシも、貴方が大好きよ」
再び、重なり合う唇。
そして俺とアリシア様の体は1つに――
「「「ちょぉぉぉぉぉぉっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」
「「!?!?!?!?!?!?!?!?」」
挿入まで残り1cmという状況で、部屋の扉が破られる。
そしてゾロゾロと、見覚えのある美少女達が乱入してきた。
「コラコラコラコラァァァァァ!! いくらなんでも早すぎるでしょー!! このフランちゃん抜きでえっちなんて許さないから!!」
頬を膨らませ、プンプンと怒っているフランチェスカ様。
「ピピーッ!! 抜け駆けセックスは禁止です!!」
なぜかホイッスルを咥えながら、ミニスカ警備隊の格好をしているイブさん。
「グレイ様!! どうせなら私に有精卵を孕ませてくださいましー!!」
胸の前で卵を抱えながら、ニッコニコのスズハ様。
「ええっ……?」
一体どこから現れたというのか。
そのあまりの水差しっぷりに、あれだけ昂ぶっていた俺の息子はシナシナと縮こまっていってしまった。
「まぁ、グレイ様のアソコも……ご立派♡」
「え? ノーマルでアレなの? あんなモンスター突っ込んだら、フランちゃんのアソコ壊れちゃーう」
「フッ……私ならば簡単に受け入れられますよ。普段からこけしで特訓を重ねていますからね! どやっ?」
俺のジュニアを見て、三者三様の反応を見せるフランチェスカ様達。
ちょっぴり恥ずかしいと俺が股間を隠した……その時。
「あ・ん・た・た・ちぃぃぃぃぃぃっ!!」
俺にしがみついていたアリシア様の顔が、いつの間にか修羅のそれに変わっていた。
髪の毛はうねうねとメデューサのように蠢き、こめかみにはビキビキと青筋が浮かんでいる。
「……」
俺は身の危険を覚え、すぐにアリシア様から離れて正座する。
ここは触らぬ神に祟りなし、と思っておこう。
「許さないわよぉぉぉぉぉぉっ!!」
「「「ふぎゃーーーーーーーーっ!!」」」
こうして、アリシア様と俺の初体験はお流れに。
多分だけど、アリシア様の希望通り……彼女の部屋でゲベゲベに見られながらする事になるんだろうなーと。
俺は目の前の騒々しくも楽しい光景を見つめながら、漠然と考えるのであった。
【王城 医務室】
「散々じゃったのぅ、レイナよ」
グレイとアリシアが初体験を逃したその頃。
医務室のレイナの元に、アドルブンダが訪れていた。
「何が? 変な事言うと……また引っこ抜くよ」
「もうワシのヒゲは残ってないぞ?」
「なら、まつ毛を抜く」
「せめて眉毛にして欲しいものじゃが、憎まれ口を叩けるようで安心したぞい」
ホッホッホッと笑いながら、アドルブンダは近くの椅子に腰を下ろす。
そんな彼をジト目で睨むレイナ。
「何の用?」
「いや、少し気になってのぅ。あの勝負……お前さん、最後に手を緩めたじゃろう?」
「……」
「それは何故じゃ? お前のエクリプス・トールならば、アイス・グレイと相殺する事はあっても撃ち負ける事は……」
「アリシアの作戦勝ち」
アドルブンダの疑問を遮り、先んじて答えるレイナ。
「なに?」
「あの子は見抜いていた。グレイ様の姿を目にすれば、レイナが攻撃を躊躇する事も……動揺する事も」
グレイと瓜二つのアイス・グレイ。
それを見た瞬間、レイナは魔力をほんの一瞬だけ緩めてしまった。
愛する男を、たとえ氷像だと分かっていても攻撃したくないと本能が判断した。
ただ、それだけの事である。
「……そうか。そうだったんじゃな。アレはてっきり、アリシアちゃんを奮起させる為の演技じゃと思っていたが」
「墓荒らしがミイラになる……とは、違うかな」
「カプ厨から夢女子になる……とも、少し違うかのう」
いずれにせよ、レイナは精神面でアリシアに負けてしまった。
最初から最後まで、グレイの為にという強い意志で戦い抜いたアリシアと……アリシアとグレイを結びつかせるという目的からグレイを奪いたいとブレてしまったレイナ。
「グレイ君を想う気持ちは、アリシアちゃんに一日の長があったというわけじゃ」
「……うん」
「じゃが、まだ諦める必要はないぞ。お前もこれから、グレイ君争奪戦に加わればいいだけなのじゃから」
「アドルブンダにしては、いい事を言う」
「これでも教員じゃからのぅ。ほっほっほっ」
そう告げて、アドルブンダは転移魔法で去っていった。
そして、一人残されたレイナは考える。
たしかにアリシアとグレイの絆は強い。自分の付け入る隙はほとんどない。
「……難易度高いかも」
それでも、諦めるつもりはなかった。
今度は自分が挑戦者。
どのようにしてグレイを奪い取るか、それを考えると楽しみで仕方ない。
「次は負けないよ、アリシア」
密かに恋敵への宣戦布告を済ませたレイナは瞳を閉じる。
まるで憑き物が取れたように眠るその寝顔は……とても穏やかで。
今後、アリシアの強力な恋敵の一人になる事を予感させるのであった。
<<継承戦(三回目) アリシア(15位)VSレイナ(3位)>>
【勝負方法】
・アリシアとレイナによる魔法比べ
【勝者報酬】
・グレイ
【決着】
・アリシアが一騎打ちを制した事により、アリシアの勝利
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