第84話 コイツらがワタクシとグレイの踏み台なのね

【王城 最上階 円卓の間】


 王都リユニオールの中心部にそびえ立つ王城。

 その最上階には王族の直系のみが参加を許される会議場が存在する。

 主に国王であるナザリウスが政治の取り決めをする際に利用しているものであった。


「ほう、エリアの孫娘が我が娘を倒したか」


 円卓の上座に存在する絢爛な椅子に腰掛けながら、報告書に目を通すナザリウス。


「まーた余に内緒で戦いおって! そんなところまでエリアにそっくりだな」


 腕を組みながら不満を漏らすものの、ナザリウスの顔には喜びの色が見える。

 まさに自分の期待通りだ、とでも言いたげに。


「お父様!! 何をそんな悠長な事を言っていますの!?」


 そんなナザリウスの態度を見て、左の席に座る一人の女性が声を荒立てる。


<<オルデネ・ガイア・リユニオール(34歳)>>

・王位継承権第2位(ナザリウスの長女)


「あの不出来な妹レイナが、たかが公爵令嬢如きに敗北しましたのよ!?」


 バンッと円卓を叩いて不満をぶつけるオルデネ。

 実年齢の割には若く綺麗な見た目をしているが、その厚化粧と身に纏う派手なアクセサリーが彼女の魅力を大きく損ねていた。

 そんな彼女の振る舞いを見て、下座に位置する幼い子供達がケラケラと笑う。


「ぷぎゃー!! お母様ったら大激怒じゃん!」


<<タカガム・リユニオール(10歳)>>

・王位継承権第9位(オルデネの長男)


「そんなに叫ぶと化粧の仮面がひび割れちゃいマスヨー」


<<マーヤ・リユニオール(10歳)>>

・王位継承権第10位(オルデネの次女)


 顔、髪型、声、どれも瓜二つの双子の兄妹。

 彼らはヒステリックに叫ぶ実の母親を愉快そうに見つめていた。


「黙りなさい!! 貴方達、悔しくないの!? あんな【氷結令嬢】如きに継承権を抜かれてしまったのよ!!」


「えー!? そう言われてもなぁー」


「ぶっちゃけ最終戦まで順位とか関係ないデスヨー」


 オルデネに叱られても態度を変える様子のない双子。

 そんな彼らに、隣に座る女性が声を掛けた。


「あらあら、いけませんよ? お母様にそんな口を利いては」


<<スプリイ・リユニオール(18歳)>>

・王位継承権第8位(オルデネの長女)


「「だってー」」


「お母様の言う事は絶対なんですから。ねぇ、お母様?」


 グズる弟と妹を諌め、キラキラとした笑みで母親の方を振り向くスプリイ。


「うるさいわよ、ブスの分際で生意気言わないで」

 

 しかしオルデネはスプリイの顔を見て、心底うんざりしたように暴言を吐く。

 スプリイの名誉の為に説明しておくが、彼女は一般的に見て超絶な美少女に分類されるべき容姿をしている。

 つまりはオルデネの嫉妬だ。


「ひゃわぁ」


 しかし母親からのブス発言は流石に堪えたのか。

 スプリイはどんよりとしたオーラを漂わせながら、円卓に顔面を突っ伏した。


「どうせわたしなんてブスブスブスブスブスブスブスブスブスブス」


「いえーいおっぱいおばけがダウンしたー!」


「おっぱいにしか栄養いってないからブスなんデスヨー」


 落ち込む姉すらもからかう対象として遊び倒す双子。

 そんな子供達を呆れた顔で見つめていたオルデネであったが、すぐに大きな溜息を漏らしながら……ナザリウスへと視線を戻した。


「お父様、これは由々しき事態ですわ。一刻も早く、あの女を始末しませんと」


「ふわぁ……余に言われてもな。今回の継承戦に余は関係ないし」


「なっ!! お父様は直系の血筋に王位を与えようとは思っていませんの!?」


 あくび混じりに答えるナザリウスに憤るオルデネ。

 彼女がさらにナザリウスに詰め寄ろうとした……その時。


「黙れ、オルデネ」


「!!」


「この円卓においては、父ではなく陛下とお呼びしろ。それがルールだ」


 そう告げたのは、ナザリウスのすぐ右に座している男。

 精悍な顔付きの威厳に満ちたその人物は……幼い子供の姿に化けているナザリウスよりもよほど【王】と呼ぶに相応しい風格であった。


「守れないのなら、今すぐ俺が叩き出してやろう」


<<アルワード・ダイナ・リユニオール(42歳)>>

・王位継承権第1位(ナザリウスの長男)


「ふんっ、分かったわよ」


 兄であるアルワードに気圧されたのか、渋々引き下がるオルデネ。

 双子はそんな母親を見て「ダッサー」と呟いていたが、すぐにギロリと睨まれて口を両手で覆い隠した。


「それと勘違いするな。継承戦とは王族の血筋の中で、最も優れた者を王に選ぶ制度。王の直系の血筋だけが偉いわけではない」


「……っ」


「そうですよ、叔母様。でなければ、陛下のご兄妹……その血筋にも王位継承権を与える意味がないというもの」


 クイッと眼鏡を指で動かし、そう口にしたのは……いかにも「全ては僕のデータ通りだ」とか言い出しそうな外見の優男。


「慌てているのは、自信の無さの現れですか?」


<<ミラル・リユニオール(19歳)>>

・王位継承権第6位(アルワードの次男)


「言わせておけば……!!」


「当然の指摘ですよ」


 クイックイッ。

 ミラルはメガネのズレを直しながら、チラリと円卓に突っ伏しているスプリイへと視線を向けた。

 円卓に突っ伏している彼女だが、その胸があまりにも大きすぎる為か……ぶにゅんとたわんだ胸の谷間が思いっきり見えているのだ。


「バカな、これほどの破壊力はボクのデータには……!」


「ミラル兄、鼻血出てるよ? ほら、これで拭けば?」


 そんなミラルにハンカチを差し出すのは、彼の隣に座っている少年。

 見た目はタカガムとマーヤとそう変わらない年齢だが、その落ち着いた振る舞いを見るに精神年齢は大きくかけ離れているように見える。


<<ロトスン・リユニオール(10歳)>>

・王位継承権第7位(アルワードの三男)


「……す、すまない」


「ミラル兄ってばむっつりスケベが過ぎるよ」


「くっ……ボクとした事が!!」


「ミラルはアホだなぁ。コソコソ見るなんて気持ち悪いだろ?」


 弟から貰ったハンカチを鼻にねじ込むミラル。

 そんな彼の頭をペチペチと叩くのは、ロトスンの反対隣に座っていた青年だった。


「俺だったらもっとストレートに行くぜ!! スプリイちゃん!! 一発ヤらせてくれよ!!」


<<ラーシュ・リユニオール(21歳)>>

・王位継承権第5位(アルワードの長男)


「はへぇ? 一発ですかぁ?」


「おうよ!! でっけぇ乳って最高だろ!? 俺はデカチチ低身長の女がとにかく大好きなんだ!!」


「うげぇー!? ラーシュ兄やっべぇー!!」


「ちょーきめぇーデスヨー!」


 ニカッと白い歯を見せながらセクハラ発言をぶちかますラーシュを見て大盛り上がりの双子。

 しかしスプリイは意味が分からなかったようで。


「あの、その……何が何だかよく分かりませんけど。私が御役に立てるのであれば、一発といわずに何発でもお好きにどうぞ?」


 小首を傾げ、どたぷーんと胸を揺らしながら微笑むスプリイ。


「うっひょーっ!」


 それを見てミラルが、品性の欠片も無い叫び声を上げてダウン。

 円卓に顔面から倒れ込んだせいで、パリーンとメガネが砕け散っていた。


「あ、わりぃ。自分で言っておいてなんだけど、流石に従妹はちょっとな! 叔母さんもこえーし、やっぱやめとく!!」


「そ、そうですか。私なんかでも御役に立てると思ったのに……うぅ、私ってば本当に役立たず!!!」


 バターンと再び突っ伏すスプリイ。

 これにてミラルとスプリイの二人がKO状態である。


「……頭が痛くなってきたわ」


 実の子と甥達の繰り広げたコントに呆れた様子のオルデネが頭を抱える。

 すると、すぐ近くに控えていた女性が心配そうに声を掛けた。


「だ、大丈夫ですか?」


「うるさいわね。側室の分際で気安く声をかけないでよ」


「……申し訳ありません」


 睨まれながら引き下がったのが、国王ナザリウスが現在唯一抱えている側室の女性。

 まだ若いが、その腕の中にはちゃんとナザリウスとの間に出来た幼子が抱かれている。


「あう~?」


「あら、起きちゃった? ごめんなさいね」


 先程まで寝ていた赤ん坊が目を覚まし、母親の顔に懸命に手を伸ばす。


<<ミカエロ・ネクサ・リユニオール(1歳)>>

・王位継承権第4位(ナザリウスの次男)


<<シャクティス(27歳)>>

・ナザリウスの側室&ミカエロの代理人


「きゃっきゃ♪」


「うふふ、楽しそうね。ほら、お話の邪魔にならないように下がってましょうね」


 ミカエロを抱いて、円卓から少し距離を取るシャクティス。

 その間、わずかな静寂が円卓の間を包んだが……しばらくして、ナザリウスがその口を開いた。


「アリシアが第3位となった事に不満があるのなら、継承戦を挑めばいい。オルデネ、お前からの挑戦なら断れないはずだぞ」


「……それは、そうですけど」


「アホだなぁ、陛下。レイナ叔母さんを倒した相手に、チキンのお母様が喧嘩を売れるわけないじゃーん!」


「どうせ伯父様に倒してもらおうとか考えていたんデスヨー」


「お黙りっ!!」


「「べぇーっ!!」」


「……くだらん」


 うんざりとした様子で呟くアルワード。

 彼は早くこの会議を終わらせて欲しいという表情で、ナザリウスを見る。


「陛下、我々をこうして呼び集めた理由はなんです? まさか、レイナが敗れた事を報告するためではないでしょう?」


「ああ、勿論だ。実はひとつ、お前達に面白い提案をしようと思ってな」


 アルワードの問いかけに頷いたナザリウスは、ニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。

 その顔を見てこの場の全員が一斉に悟る。

 ああ、どうせまたロクでもない事を言い出すのだろう、と。


「継承戦もいよいよ大詰め。もうじき決勝戦なのだが……普通にヤりあってもつまらんだけだ。そこで1つ、新たなルールとして……」


「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」」


 そして予想通り、それは本当にロクでもない言葉で。

 まだ何も知らないアリシアとグレイはやがて……そのはた迷惑な発言に振り回される事になるのであった。




~~~~~王位継承権TOP10まとめ~~~~~


<<アルワード・ダイナ・リユニオール(42歳)>>

・王位継承権第1位(ナザリウスの長男)

・遊び呆けているナザリウスに代わり政治の実権を握る


<<オルデネ・ガイア・リユニオール(34歳)>>

・王位継承権第2位(ナザリウスの長女)

・商会や冒険者ギルドに強いパイプを持つ守銭奴


<<アリシア・オズリンド(18歳)>>

・王位継承権第3位(先代王の曾孫)

・グレイ大好きちゅっちゅっちゅ♡

・淫乱ドスケベボディの持ち主

・七曜の魔導使いクラスの実力者

・とってもグレイがだぁいすき♡

・金騎士=世界で一番カッコイイワタクシだけのグレイ


<<ミカエロ・ネクサ・リユニオール(1歳)>>

・王位継承権第4位(ナザリウスの次男)

・まだ幼いので母親が代理人を務める


<<ラーシュ・リユニオール(21歳)>>

・王位継承権第5位(アルワードの長男)

・豪快な性格の持ち主だが父親に似て聡明な部分も


<<ミラル・リユニオール(19歳)>>

・王位継承権第6位(アルワードの次男)

・むっつりスケベメガネだが実はそんなに頭が良くない


<<ロトスン・リユニオール(10歳)>>

・王位継承権第7位(アルワードの三男)

・兄弟の中で一番の天才だが面倒くさがりで権力争いを嫌う


<<スプリイ・リユニオール(18歳)>>

・王位継承権第8位(オルデネの長女)

・母に毛嫌いされて育ったせいで超ネガティブな作中一番のビッグバスト


<<タカガム・リユニオール(10歳)>>

・王位継承権第9位(オルデネの長男)

・生意気でイタズラ好きなクソガキ(双子兄)

・金騎士=オウガ


<<マーヤ・リユニオール(10歳)>>

・王位継承権第10位(オルデネの次女)

・生意気な毒舌好きなメスガキ(双子妹)

・金騎士=エド

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