第27話 「世界に1つだけの花になる」「過保護に、育てられ…。大きくなって」 「大きくなって♡」「ちょ…!」 「なめ、なめ、やだ…♡」そして、あの夜!

 「ふふ」

 ゆ×り君が、何かを思い出せたと同時に、モスキー子様が、ほほえんだ。

 「あら?思い出して、くれたの?」

 「ほひい?」

 「ゆ×りがあって、かわいい声ねえ」

 「え、え?」

 「苦しかった就職氷河期世代の子たちは、そんな声を出している余裕なんて、なかったのに。違うのねえ…」

 「ぼ、僕、ほゆるりあ…」

 「ずっと、忘れていたんだろうね。身体と心に、ゆ×り、あるのね♡就職氷河期世代の子たちから、金やら仕事を奪ったということも…。夢も、奪ってしまったということも…。ぜーんぶ、忘れちゃうのよね?」

 「じいじ、ばあば…」

 「忘れちゃうから、感謝はしない。知らない人とは、しゃべれなくても良いらしい。世界に1つだけの花になる。社会人として、意味不明」

 「…ああ」

 「過保護に、過保護に育てられて…。大きくなって」

 「大きくなって♡」

 「ゆ×りパワーだ!」

 「ちょ…!」

 「…何?」

 「ああん、そこを、なめ、なめ、やあだあ…」

 「…いい加減に、思い出しなさいよね」

 モスキー子様のほうが、部屋の中を、わざとらしく、歩き回りはじめた。

 「あ…あ…」

 「そう、そう」

 「思い出せた?」

 そうだ。何かが、思い出せた!

 今まで、気が付かなかった。

 モスキー子様は、足を、引きずっていたぞ!

 「足の、あたり…」

 ある夜のことが、よりはっきりと、思い出せてきた。

 1度、思い出せたこと…。

 あの、忘れられない夜の戦いの記憶が、こんなにも、降ってきて…!

 「こいつめ!」

 身体のまわりを飛び回ってきた蚊を、いつも以上に、追いかけ回していた夜のことだ。

 「かゆい!あっち、いけ!」

 ぷうん…。

 「蚊取り、効いていないのか?」

 ぷうん…。

 「こいつ!」

 「うるせえ!」

 となりの部屋にいたらしいおじさんが、怒鳴り込んできたっけ。

 やっぱり!

 あのときのこと、なんだな!






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