(5)



「お兄ちゃんと、付き合うことになったの」


 後日、彼女はどこか申し訳なさそうな様子で、私にそう告げた。


 

「よかったな。あんな屈強な彼氏ができたら、誰も言い寄ってこなくなるんじゃない?」


「そうだね……」


 彼女は浮かない表情で、曖昧に頷いた。その様子に、苛立ちと愛おしさを感じた。



「あー! これでもう愚痴聞かなくて済むと思うと、清々するよ!」


 冗談めかして言うと、漸く彼女の顔に色が戻った。


「もう! どうして匠はそんな言い方しかできないの?」


 そして、屈託のない笑顔で、私の髪をぐしゃぐしゃと撫で回した。





 私の腕は、彼女を守るには細すぎる。

 だから、これで良かった。



 なっちゃん、なっちゃん、大好きだったよ。


 幸せになってね。栗色の瞳を見つめながら、心の底からそう願った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

細い腕 青のキカ @kika_aono

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ