(4)
いつものように彼女を家まで送り届けると、家の前に見知らぬ男が立っていた。また変な奴に付き纏われているのかと思い、男に声を掛けようとした時だった。
「お兄ちゃん!」
彼女が急に駆け出し、男に抱きついた。
「幼馴染のお兄ちゃんなの。昔よく遊んでもらったんだ」
そして、こちらを振り返り、眩い笑顔でそう告げた。
「夏美、久しぶり。就活でこっちに寄ったからさ、ついでにおばさん達にも挨拶しようと思って」
「こっちで就職するの!? もっと早く連絡してよ!」
「あくまで候補だけどな。もうスマホ買ってもらったのか?」
「もー! とっくに持ってるよ!」
彼女が頬を膨らませながら、男をポカポカと殴る。その光景は、どこかで見覚えがあった。
そうだ、自分しか知らないはずの、彼女の姿。
その笑顔。その声色。感情と連動して、コロコロ変化する表情。自分しか知らない彼女だ。
そんな風に、他の人にも笑わないで……。
「彼女は? お友達?」
呆然と立ち尽くす自分を気に掛けるように、男は軽く頭を下げた。
「うん!
「下の名前で呼ばないで。嫌いだから」
恥ずかしさと情けなさで、声が震えた。一秒でも早く、この場から立ち去りたかった。だけど、足が少しも言うことを聞いてくれない。
「あ、ごめん……。そ、そうだお兄ちゃん、今度お兄ちゃんの友達も呼んで、4人で遊ばない? 匠ね、美人なのに彼氏いないんだよ」
「やめろって!」
彼女の体がビクンと跳ね、みるみるうちに顔色が青ざめていく。
彼女に対して、絶対に声を荒らげない。そう決めていたのに。そんなことすら守れないのか、私は。
「えっと……夏美を送ってくれたんだよね? ありがとう。あとは俺が連れて帰るよ。もう家、目の前だけど」
男は場を和ませようとしたのか、わざとらしく大きな声で笑った。その野太い声が、やけに耳に刺さった。
180を優に超えていそうな身長。広い肩幅。隆起した喉仏。褐色の肌に、血管の浮き出た腕。筋肉質な身体。窮屈そうなシャツ。
彼を見ていると、自分が女であることを嫌というほど思い知らされた。
ーーなっちゃんは、どんな人がタイプなの?
ーーえっとね、背が高くて、男らしくて、私を守ってくれるような人!
彼女のことを好きになって、初めてした質問を思い出した。
あの日から私は、少しでも男になりたかった。
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