NGカット集(マルチエンディング)

【ガラクタに埋もれた転移陣デストラップ


「どれで転移を……って、確かココにも」


 大魔王が幻惑魔法がかけられたガラクタの山をどかすと、どれを選ぶが迷っていた転移魔法陣よりも一際大きい魔法陣が現れる。


 それは魔王軍黎明期において大魔王が息抜きに魔王城を秘密裏に抜け出す為に使われていた魔法陣。転移先は魔王城から程よく離れた所にある綺麗な花畑だった場所。


「ここに来るのは久々だな。あ〜長らく手入れしに来なかったから荒れ放題だ」


 大魔王が雑草を引き抜こうとしたその時だった。


「……ぇ」


 大魔王の胸から生える……否、背中から貫いて現れた蒼く光る剣。帯びた魔力で血さえも弾く刀身は酷く美しく、熱くも冷たくもあった。


「お前が大魔王だな」

「なん……で……ぇ……——」


 ガラクタをどけた痕跡がありありと残る転移魔法陣を見て、慌てて使って逃げたと考えるのは至極当然の結論である。大魔王の衣が転がる部屋から逃走を図るモノなど大魔王以外に考えられない。特に魔王戦を経て疲れで思考力が低下気味の勇者一行にとっては。


     

 [DEAD END]






0.2秒十二フレームあれば十分だ】


「隠し扉、よし。あとは……」


 魔王の間に転移した大魔王は足早に施錠された大扉へ近寄り、隠し扉の戸を掴み待ち構えていた。


「い——」


 勇者一行の瞳に己が映る一瞬を。


「——たぞ」


 大魔王の持つ『真・主級領域』は敵に視認されるだけで発動する。とりわけ人外の領域へと足を踏み入れつつある勇者相手なら尚更、発動は早い。


「え?」


 見つけた大魔王の間髪入れずな隠し扉からの逃走を想定していなかった勇者一行に生まれる思考的空白。全力疾走で逃走する大魔王に合わせて動く不可視の障壁に弾かれて我に帰るも時既に遅し。


「隠し扉はど——」


 隠し扉は閉じられており、図書室の探索を疎かにしていた勇者一行は隠し扉を闇雲に探すしかない。しかし、金ダライに乗って階段を滑り降りる大魔王と連動して障壁は更に加速する。



 勇者一行は大扉内側の新たな赤黒い模様へと成り果てた。




 [KILL END]






【お前は粘性生物スライムじゃない】


「僕、悪い大魔王じゃないよ!」


 どれで転移するか迷っている内に勇者一行と邂逅した大魔王の転生者らしい一言は——


「んなワケないでしょ!」


 ——現地人に通用するはずもなかった。



 [ DEAD END]






【ん? 今なんでもするって言った?】


「だから命だけは!」


 覚悟を決めて土下座しながら勇者一行を待ち受ける大魔王の命乞い。


「みんな、聞いてくれて」


 大魔王の背後にあるパーティメンバーからはガラクタの山と思われている品々の価値を正しく理解する異世界召喚勇者の取り成しよって大魔王の命乞いは受け入れられた。


「な〜に、ちゃんと給料は出すから」


 異世界においては近未来的な電子機器に似た魔道具を僅かな賃金で量産する大魔王のおかげで人類は加速度的だが少し歪に高度な情報化社会を築き上げていく。


 名誉と成果は勇者一行に、苦労と労働は大魔王ただ一人へ。


 嫌気がさした大魔王が反旗を翻すのは不老不死の身で過労死を幻視する遥か遠い未来の話になるだろう。


社畜BUD END]





【リサーチは大事】


「よ、よく来たな勇者よ。そうだ、『世界の半分をお前に——」


「いらん。統治なんて面倒くさいし、引退後は勇者年金で好きな事して過ごす予定だ。それに貰ったのは『暗黒に包まれた世界だった』ってのは御免だからな」


 勇者と大魔王は互いが今の存在になる前は同郷であった事を悟った。


「私が育てた魔王は強かっただろう?」

「なに?」「「なんですって」」


 敵意を強める勇者以外の面々を気にするでもなく大魔王は机と人数分の椅子を自身と勇者一行の間に生成する。


「あれでも小さい頃は可愛かったんだぞ? 少し甘やかし過ぎておバカに育ってしまったが。それより君達も腰掛けてはどうだ。魔王戦の疲れが残っているだろう?」


「誰が! 座るワケないでしょ」


 悠々と自身が生成した最高級ゲーミングチェアに腰掛ける大魔王。勇者は座りたそうに椅子へ視線を泳がせるも、仲間に合わせて立ったまま大魔王と対峙する事を選ぶ。


「では立ったまま、それも魔法を発動待機状態のままで構わないから少し話をしよう」


 圧倒的不利な状況下に身を置きながらに余裕を崩さない大魔王の虚勢ハッタリに勇者一行は耳を傾けてしまった。


「なに、私と戦わず見逃すのはどうだろうか」

「は?」

「戦えば少なからず死人が出るぞ?」


 死ぬのが間違いなく己である事を悟らせぬ大魔王の気迫に飲まれる一行。


「タダでとは言わん。勇者にはネットに繋がるタブレット端末と最新式のペンタブを、女性陣には特製の豊胸器具を。重騎士には未来の筋トレ用品でどうだろう」


「「「乗った!」」」「むぅ」


 渋い顔の重騎士。


「魔王軍が完全に滅べば共通の敵が無くなった人類は人類同士で争うだけだぞ?」


 重騎士は顔を縦に振らない。


「いや、報酬が気に入らないだけか」


 重騎士の目が泳いだ。


「ふむ。では性転換はどうだ」


 重騎士の瞳孔が少し開く。


「勇者好みの美少女にしてやるぞ?」


「乗ったぁ!」

「「「えぇ!?」」」




「重騎士は魔王最期の足掻きから勇者を庇い、解けぬ呪いによって美少女となってしまったとでも話を盛っておけ。それと渡した魔道具類だが、私が死ぬと機能を停止するから妙な事は考えるなよ?」


「了解だ。じゃあ俺達は大魔王など見なかったし、存在する事も知らない」

「それでいい。器具が壊れたり再性転換したくなればこの地図が示す場所に来い」


 そうして大魔王と勇者一行は握手をして別れるのだった。



 [GREED END]

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大魔王様は逃げられない  〜異世界転生で大魔王になって苦労して育てた魔王が異世界召喚できた勇者に倒されました……え、これもう詰んでない?〜 真偽ゆらり @Silvanote

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