第34話 時には昔の話を

豊かな水を湛える噴水には、二対の銅像があった。


ある者は露店の前で威勢のいい声を上げ、ある者は恋人と愛を語らい、またある者は騎士ごっこに励む我が子に目を細めていた。


その頭上には、世界樹の木漏れ日が優しく彼らを見守るように、そよぐ風に併せて陰影を変化させていた。


「オレが騎士だかんね!」


「えー! こないだもやったじゃん!」

「兄ちゃんばっかりズルい!」


「へっへーん! 我が名はロベルト!」

「救国公にして聖金獅子騎士団団長、ロベルト・ピエリスなるぞ!」


「もう! じゃあ僕は第六天魔王オダ・ノブナガだぃ!」


「いざ尋常に勝負!」



――――――――――――――――――――――――――


「へへへ~やっぱり日なたぼっこは最高だねにぃに~」


「せやなぁ」ズズッ

「サヤマー茶が染みるでー」


「も~それ何杯目なの~」


「はて? 忘れてもーたわ」


「全く~しょうがないにぃにだね~」


「スマンやでー」




「こちらにいらしたのですね!」

「大司教様! 探しましたよ!!」


「ふぁ!?」

「見つかってもーたがな!」


「今日は戴冠式ですよ!」

「早く御支度ください!」


「はぁ…」

「ハイセスアイゼン副団長、たまにはのんびりさせてくれやー」


「頑張っていってらっしゃいにぃに~」

「帰ってきたらポンポンしてあげるよ~」


「あの…。貴女様も臨席されるのですよ」


「ふぁ!? き、聞いてないよ~!」


「何度も申し上げました!!」

「この鉄斧にかけて誓います!」

「今日は東の大国から、オダ魔人帝に、臣下のモリ将軍も遥々お見えになられるのですよ!」

「しっかりしてください!」


「せやせや!」

「しっかりせなアカンで!」


「も~なんでそっち側なのよ~にぃに~」


「あーもう! 時間がありません!」

「獣人族の統一国家からの使節団もお迎えしないと!」

「世界冒険者ギルドの演武会も!」

「あー! もう!」




「平和でなによりやわぁ」ズズッ





『鉄花のナヴィガトリア』 完

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