第33話 歩いて帰ろう


本当の戦いとは、血を流す事だけではない。


そう痛切に感じる日々だった。


当初の予想より被害者は多くなかった。

王都の外郭部の住民は避難したものも多く、嬉しい誤算だが実態調査には困難を極めた。


生存が絶望的と思われた王族も、国王の末の息子が奇跡的に四年もの日々を『死のメガロポリス』で生き抜き生還した。

これにより均衡状態にあった諸公連合にも、後見人争いという不穏な波紋が広がると見ていいだろう。


何よりほぼ壊滅状態の王都の復興には我が辺境の数倍の月日と人員を要するだろう。

不戦条約とやらもいつまで保つのかなんて誰も分からない。

第二の不死人が現れかねない不安もある。

強硬派の中には南部の獣人国と手を組み、魔大陸にて不死人との決戦論まで飛び出し、騎士団内部でも壮絶な論争になったと聞いた。


もっとも疲弊しきった王国にそれだけの体力があるかどうかは甚だ疑問だが。


婿殿むこどの! ここにおったか!」


「おぉ内務卿はん」

「スマンやでーちょっと借りてたんや」


「いえ、俺が言い出したんです」

「今日でちょうど1年ですから」



「おぉもうそんなに経つのか」

「守り人様、まだ花は咲きませんのか?」


「せやなぁ」

「魔力がスッカラカンになってもーたからなぁ」

「あと何年かかるやら…」

「でも……」


「必ずもっかいポンポンしたんねん」




「お父様!」

「もう! また会議を抜け出したんですって?」

「全く義理の息子に似るなんて…」

「あら」


「貴方もいらしてたのね…」


「……すまない」


「お、おほほ…ほ」

「そ、それよりお父様」

「副団長を辞するって本当ですの?」


「うむ! あやつが団長を辞めるのではのぉ、儂の役目も終わりじゃよ!」

「内務に専念するわぃ!」


「騎士団も寂しくなりますね」


「なぁに! 後進も育っておるわぃ! ぬっはっはっは!!」


「まだまだ元気そやけどな」


「おーーい! オッサーーン!」

「やっぱり皆さんここにいらしたんですね」

「あちこち探したでゴザルよぉ!」

「団長! またすぐ居なくなるんですから! 探す身にもなって下さいよ!」



「婿殿も大変じゃのぉ! ぬっはっはっは!!」



「ピエリス閣下。そういえばコレ、本当に頂いても宜しいのですか?」


「ん? 頂くもなにも元は貴殿の祖父の物であろうが」

「元の持ち主に返しただけである! ぬっはっはっは!!」


「か、感謝申し上げます」


「貴殿は固いのぉ! 祖父の様に豪放磊落な戦士であれよ! ぬっはっはっは!!」


「ナイムキョー相変わらず大声だな!」


「…はぁ。起こる気にもなれません」


「最早、日常」

「でゴザルな」


「そういえば雁首揃えてどうしたんだ?」


「そうでゴザった!」

「大変でゴザルよロベルト殿!」


「ん?」


「我が主が見つかったでゴザル!」


「本当か!」


「左様にゴザル!」

「えっと」

「何と申したかのぉジジ殿」


「オホン。まんで説明しますね」

「魔大陸の政変の噂は聞いてますか?」


「勿論である!」

「その会議を抜け出してきたのだからな!」


「えっと」


――

『魔大陸の政変』



数百年も戦乱の続く魔大陸は『五大魔王』と呼ばれる竜族、巨人族、不死人族、獣人族、魔族の五種族が覇権を争っている。


が、この1年急速に力を付けた勢力があるという――


「その名も…」


「『第六天魔王』!!」

「我が主でゴザル!!!」


「と、まぁそんな訳です」


「ゴザルが行くって聞かねぇからよ」

「とりあえずパーティー集合ってこった!」



「そうか!」

「良かったじゃないか」


「ロベルトさん、そういう話ではなくてですね…」



「横槍失礼しますわ」

「つまり貴方も一緒に行こうってことですわ」


「オバチャンの言う通りだぜ!」

「アタイ達、金等級パーティーの伝説作りに行こうぜ!」


「オバッ…!?」

「オホン。エイダ様? もっと良い言い方があるのではなくって?」


「すみませんすみません」

「もう雨に降られたと思ってください…」


「あぁ? ごちゃ混ぜうるせぇよクソ猫!」

「やいオッサン! どうすんだ?」


「俺は…」


「行ってくればよかろう!」

「復興にも時間がかかるし、二人の結婚式はまだまだ先になるからのぉ!」


「閣下…」


「そうですわ!」

「貴方も体が鈍ってると仰ってたでしょう?」


「…しかし」


「あ、ちなみに私も同行しますわよ」


「え!?」

「そ、それは無理だ!」


「無理ですって?」

「あの事件でパルヴス様と融合して以来、王国、いえ大陸一の魔法使いは誰だと思ってますの?」

「火力なら大砲にだって引けは取りません事よ」


「し、しかし!」

「閣下も笑ってないで止めてくださいよ!」


「馬鹿娘め、言い出したら聞きゃあせんわい! ぬっはっはっは!!」


「ちょ、ちょっと!」

「クレメンスさん!」


「諦めや! それにワイも付いていくで!」

「不死人には借りが出来てもーたからな!」

「お嬢ちゃんにはコーチ、パーティーにも監督は必要やろ!」


「魔大陸では魔法使いが欠かせませんからね」


「お! ヨロシクなオバチャン!」


「心強いでゴザル!」


「…」


「あら、都合が悪くなると無口にお戻りあそばせるのね」


「…」


「団長、諦めてください…」


「…お前も」


「は?」


「お前も来るんだろ?」


「それは勿論!」

「団長の居る所、副団長ありですから」


「…根回し済み、か…」


「知らないのはいつも貴方だけ、ですわ」


「…」


「いよっし!」

「そうと決まれば決起会だぜ!」


「ゴザルゴザル!」


桑弧蓬矢そうこほうしの志を立てる、と言いますし…」

「今回は大目に見ましょう」


「いゃっほーい!」


「エイダ殿! そういえば例の店がこの王都にも出店したらしいでゴザルよ!」


「なに!? そりゃ最高だな!」


「例の店ってなんですの?」


「公爵様のご令嬢には相応しくないかと…」


「…まぁこれから先、宮廷料理って訳にも往かないんだ」


「そんなの覚悟の上ですわ!」


「…だそうだ」


「私、とても興味がありますわ!」

「名物料理はなんですの?」



「…それは」





次回  『時には昔の話を』

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