第30話 The Lonely Goatherd
「起きて、マリア。愛しい我が烏瓜の君」
「主賓が到着したようだよ」
「あら、私とした事がはしたない」
「もう少しの辛抱だよ」
「間もなく花が開く」
「夜に開くなんて本当に君にお似合いの花だね」
「うふふ、そうかしらね」
「お気を付けてフランツ様」
「あぁ、客人に粗相の無いようにしっかりとお持て成ししてくるよ」
「我が愛しの君を頼むよ馬酔木の君」
「お任せ下さいませ」
「では王国の二輪花よ、暫しご機嫌よう」
――――――――――――――――――――――――――
「やっと着いたな」
「ったくクソ長い廊下だぜ」
「
「馬鹿で悪かったな」
「いえ、その
「……馬鹿で悪かったな」
「……お喋りはそこまでだ」
「……行くぞ」
王国の象徴。その中心部は、聖域というに相応しい荘厳さを今尚保っている。
しかし次代に継ぐべき王族は絶え、役目を果たせなくなった戴冠の間はどこか悄然とした空気を湛えている様に感じる。
それがとうに日が暮れ、陽光の差し込まぬ、鈍色にくすむ窓枠のステンドグラスによるものなのか。
それとも眼前に立つ、最後の王位継承者であった彼の発する負のエントロピーの為せるものなのか。
「やぁ皆さん、余興はお楽しみ頂け…」
「フラアアアアンツ!!!」
燻べた火山の突如目覚める
口上を待たずに飛び出した鈍色は、凄まじい剣戟とは裏腹にいとも容易く受け止められた。
「がああああああ!!!」
軽やかに身を引くと旧友は続ける。
「やれやれ」
「人の話は最後まで聞くものだよ?」
「あー」
「感動の再会のお邪魔して申し訳ないんやけど、ちょっとええかな?」
「おや、守人殿」
「ご無沙汰しております」
「如何なさいましたか?」
「いやな」
「ここの世界樹にはこんまい守人がおったはずやねんけど」
「君、知っとるかなぁ思って」
「『小さきパルヴス』言うんやけど」
「んー」
「あぁ!」
「それなら寒かったので薪に焼べましたよ」
「ほうか」
「それ、ワイの末の妹やねん」
屋根を弾く豪雨の様な絶え間ない銃撃が放たれる。
「鏑矢には物騒やけど死合開始にさせて貰うで」
巨躯の戦士二人の後ろに潜む様な陣形で武士が続く。
後方では弓を引き絞る少女と砲形の魔道具を構える三ツ目猫が発射の時に備えている。
怨嗟の鎖を断ち切ろうと七本の鉄鋏の死闘が始まった。
次回 『And 7』
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