第28話 La Bohème

――『烏瓜殿』

建国時の王宮として建てられたその宮殿は、当初の役目を終え王国の象徴として後の世まで王とその臣民を見守るはずだった。


小高い深緑の山から覗く純白の宮殿。

王国黎明期の建築様式がそこかしこに伺え、前庭は質素ながらも手入れの行き届いた花で満ち溢れ、眼下には王国が一望出来る。


山の頂上付近にそびえる世界樹の木洩こもれ日の中、静かに笑う慈母の様な暖かさを湛えていた…はずだった――



「見るまでもありません」

「額の目がズキズキしますよ……」


「魔法がからっきしの私でも嫌な感じがします……」



「……正念場だ」


今や見る影もない前庭を進んでいく。


草花は枯れ果て、苔生した石畳の奥に僅かに近衛兵の奮戦の跡が見て取れる。


花で覆われたアーチだったのだろう。朽ち落ちた土台はまさに骨組みという言葉が当てまる。



「いよいよ本丸でゴザルな」


損傷が激しく再利用の目処が立たなかったのだろうか。ガゼボの中には積み重なった髑髏を枯れ草のキルトが覆っている。



館の入口では蝶番ちょうつがいのこぎりを充てられた罪人の悲鳴の様な音を上げて主賓を誘う。



背後から聞き慣れた声がする。


「お~い」


「クレメンスさん!」

「お! 間に合ったんだな枯れ木のオッサン!」


「いやぁ~大見得きったけど間に合って良かったでー」

「竜族の事なめてたわ!」


「ぬっはっはっは! 勝ったのですな」


「ホンマギリギリやったで!」

「アイツの火をかわしてワイの銃がこう……」


「ま、それは置いといて」


「急がな日が暮れてまう」

「例の花が咲く前にカタつけるで!」


「……いよいよですね、団長殿」



物語は、戦は。


かわたれに始まり、たそがれへと進む。


射干玉ぬばたまの闇に向かって




次回  『何せうぞ くすんで 一期は夢よ ただ狂へ』

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