第27話 帰り来ぬ青春

――『戦なくしてほまれなし、民なくして剣なし』


王立聖金獅子騎士団の信条である。


数多の戦に赴く騎士団の矜持であり、王立騎士団の存在意義である――



白銀の聖剣に刻まれたそれを一瞥いちべつすると、騎士団の長は声を張り上げた。


「破城槌を急がせろ!!」

「砲兵部隊はありったけをくれてやれ!」


護るべき民に向かい振り下ろされる拳には悔しさの爪が突き刺さる。


――『行けるところまで行き、死ぬべきところで死ね』


ヴォルフガング家の信条である。


ある戦の時、騎士団長である彼は副団長にこう尋ねた事があった――


「我が家と貴公の家、お互いに王家に剣を捧げて随分と経つが、貴公の信条の意味する所に気を掛けた事がなかったな」


「そうでしたかな」

「余り言いふらす様なものでも御座いませんですしの」



あの時アイツはそれから何と言っただろう。



「攻城部隊より報告! 敵魔法障壁堅固なり! 増援を請う!」

「魔法部隊を急がせろ! 撃ち壊せ! 何としても敵全軍をこちらに引き付けるのだ!!」



怨嗟に囚われた民に。屍に成り果てた同胞に。そして、自領に蟄居している友の無念に。


応えねばならぬ。


白銀は二つ名を振り上げ声を張る。




「じゃあ団長のオッサンはアンタが城内にいること知らねぇのか」


「ぬっはっはっは!そうなるのぉ!」


「やるなぁナイムキョー!」


「もう突っ込む気力もありません……」


「なんで女子と老体が元気なのでゴザル……」


「限界です、団長ど……ップ」


「…ハァ…ハァ…」

「……息を整えたら進むぞ」


「お、ナイムキョー! 斧になんか付いてるぜ?」


「ふむ?」

「!」


「どうした?」


「いやいや! 返り血だったようだ! ぬっはっはっは!」


「アイツら血なんか出ねぇのに、変なの」


「ぬっはっはっは! 勢い余ってネズミでも切ったのだろう! ぬっはっはっは!」


「ふーん」

「まぁいーや! そろそろ行こうぜ!」



次回  『La Bohème』

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