第26話 サーカスナイト
――金切り声を上げる口は大きく裂け、両の眼からはインクのような涙が
見知った顔もあった。ある者は近衛兵。後方で魔法を詠唱しているのは王立魔術院の上級魔道士。先陣には王立騎士団の分隊長。
いずれも生前は護国の誉れ高い手練れ。
その恥辱は如何ばかりかーーー
「クソ猫!合わせろ!」
「やれやれ…」
三ツ目の構えた砲形から無数の
「ヘルマン殿! アプール殿! 大具足は任せたでゴザル! 拙者は魔道士を!」
「応! アプール殿! 押し返すぞ!」
「お任せを!」
全身鎧の棍を若き鉄血が受け止めると、間髪入れずに古き鉄血が押し潰す。
武士は一筋の稲光と化し詠唱中の魔道士の喉を搔き切っていく。
「……お前の相手は俺だ」
「それは
「我が主へはご退席されたとお伝えしておきます」
「……伝えられれば、な」
戦闘開始から一番の一際大きな剣戟の音が爆ぜ、広間に
シャンデリアの灯りがフラリと揺れた。
「ぐっ…! 手強いのぉ!」
「クレメンス様の仰った刻限も近いです!」
「キリがないでゴザル!」
「何匹いやがるんだよ!」
「魔道具も残り少なくなってきましたよ!」
広間を揺るがす様な轟音。
固く閉ざされた城門を打ち破る、破城槌の如き衝撃。
音の余韻を存分に堪能した後、執事形の不死人の体が左右に裂けた。
「……お見…事」
「押し通るぞ!!」
一同の奮起の紅潮を背中に感じた時だった。
かつて『アイツ』と初めて語らったバルコニーに人影。
乳白色の肌。栗色の髪から覗く浅黄色の瞳。
王国の二輪花と謳われた馬酔木の君。
遠目にも柔らかさを感じる手を口元に、そっと微笑を浮かべている。
まるであの日みたいだ。
戦闘の最中、鈍色の薄幕に突如顕れた純白に、思わず鉄剣を握る手が緩んだ。
――背後から猛烈な殺意。
追い越す様に眼前に現れた叔父の二つ名は、竜巻の様な音を立て、バルコニー横の柱に突き刺さった――
「この馬鹿娘がぁ!!!」
『大鬼』でさえ逃げ出しそうな憤怒の形相をものともせずに、馬酔木が突き刺さった鉄斧を撫で答える。
「ご無沙汰しておりますわ、お父様」
「リリー!!」
「あら、これは気付きませんでした」
「余興はお楽しみ頂けて?炎竜討伐伯様」
「まぁその竜も、我が主が蘇らせてしまったけれども」
「何故、何故なんだリリー!!」
「ふふふ」
「烏瓜殿にてお答えしますわ」
「皆様、
「待て! リリー!!」
半分程に減った不死人が再び
「オッサン! ボケッとすんな!」
「さっさと片付けて追えばいい!」
「団長殿! 来ます!」
揺れが収まったシャンデリアが本来の明るさを取り戻し、鉄血を再び鈍色の薄幕の世界へ誘っていった。
次回 『帰り来ぬ青春』
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