第20話 Le temps des cerises

「ヴォルフガング団長、世界樹教会の方々がご到着されました」


「そうか」


最近歳を取ったな、と痛感する。まだまだ騎士団の若手に遅れは取らないと自負しているものの、歴戦のツケというやつか。

共に語らった戦友は年々減り、ついには自分一人になってしまった。


一人で罪を被った友人。


お互い大公家で歳も近い。

騎士団へは向こうが早く入っていて、件の辺境伯の叔父と実力伯仲の騎士団のエースだったアイツには密かな憧れを抱いていたもんだ。


次期騎士団長を決める時。

勿論両雄どちらかがなると思っていた。

諸共に豪快な笑い声で柄じゃないと言われた。


役不足と言われぬ様に必死の思いで剣を振るった。


そうだ。


この作戦が終われば娘の婿にでも跡目を譲り、蟄居ちっきょしている戦友と釣りにでも行こう。

その頃にはアイツの故郷の川では名物の魚が旬を迎えて丸々と肥えているはずだ。


散華さんげした者、夢半ばに去って行った者、討ち滅ぼした者。夢と屍の上にこの手の聖剣は白銀色に輝く。


日々重くなるな。


そう呟くと大広間への歩を進めた。




『聖金獅子騎士団暫定本部』


歴代の聖剣も当代を含めれば二十を超える。


が、ここ暫定本部にあるのは当代の白銀のみである。


「正騎士達よ!」

「王国の聖なるたてがみよ! 牙よ! 爪よ!!」

「あの日、四年前の恥辱を忘れたとは言わせぬ!」

寂寞せきばくに服したこの四年間を! これから紡がれる久遠の王国の歴史を! 騎士団の象徴たる先達の聖剣を!」


「そして我等が守るもの全てを!!!」


胡乱うろんなる者共が彷徨ほうこうする我等の王都を取り返す日がやって来た!!!」



――あの日、騎士団の。貴族の。いや、王国の民全てが思いもよらぬ所から王都は瓦解した。



如何なる大軍にも屈しなかった『王都の城壁』


数多の仇敵を討ち滅ぼしてきた騎士団の剣。


盾と矛の隙間から突如忍び込んだ害虫に為す術も無く食い破られて逝く様を睥睨へいげいするしか出来なかった。


兵糧攻めも通じぬ辺獄の軍勢と、続け様に侵攻してきた共和国との前後二正面作戦に、大陸一の戦力を誇る我が騎士団は次第に痩身そうしんしていった――



「我が身を食む害虫に抗う最後の好機である!」

そんな事を声高に発した頃だろうか。


鎧兜の上からでも紅潮してゆくのが伝わる騎士達に次代のきらめきを見た。


顔ぶれは大分変わった。


次は自分の番だ。



次回  『廃墟のシャンデリア』

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