第19話 キミを想う夜
『教会の僧列』
かつての自領では迎え入れる立場だったのに、まさか自分が加わる事になろうとは。
依頼主の少年へ報告を済ませた時などは、村中の連中が傅き平伏した。
内縛した両手から人差し指を立てる教会の祈りの仕草に、ランマルは不動明王信仰だと燥いでいたが何の事だかさっぱりだった。
諸公連合の暫定首都までは残り十日程の所まで来ていた。
この頃になると各地からの騎士団の一行と行き合う事も多くなり、須く下馬をして頭を垂れる貴族たちにエイダはすっかり鼻高々といった様子で、ジジに虎の威を借る狐だと窘めれていた。
街道沿いである騎士団と野営をする事になったある夜。
「なんや寝つけないんか?」
「……はい」
「騎士団が警備に付いてくれとるし、寝れる内に寝ないと損やで」
「……分かってはいるのですが」
「まぁこんなに綺麗なお月さんが出てたら無理もないけどな」
「そこのアンタもそう思わん?」
「!?」
「おや、お気付きでしたか」
「まーな」
「そう怖い顔をしないでください」
「本日は伝令で参りました」
「……」
「馬酔木あせびが烏瓜殿にて見頃を迎えております」
「根腐れしない内にお越し下さいませ」
そう言い残すと使者はドロリと溶け、汚泥を纏う髑髏はケタケタと笑い崩れ落ちた。
「知り合いやったん?」
「……昔の部下でした」
「ほーか」
足元の汚泥と曝首に向かい何かを呟くと、瞬く間に淡く輝く一株の鈴蘭が現じた。
「花言葉は『再び幸せが訪れる』や」
「世界樹の加護授けるさかいに、今度は迷ったらアカンで」
「……ありがとうございます」
先程まで夜空を照らしていた二人の姫はいつの間にか雲に隠れてしまい、仄かに御簾みすの奥で微笑を浮かべていた。
次回 『Le temps des cerises』
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