第10話 empty chair その一
――半年に一度の王宮への報告もかれこれ十度になるだろうか。
復興の手が止まる厳冬期と短い夏。
王国への報告を済ませ、それが終われば資材の調達や人材育成の為の王立騎士団との演習に明け暮れ、合間にはスポンサーの貴族の相手。当初はフランツと
ゆっくりと、最初は『砂蜴』の脱皮のようなもどかしさで始まった復興への道程。
ようやく一つの形が見えてきた。
「ロベルト、最近良いことでもあったのかい?」
「べ、別にそんなんじゃねぇよフランツ」
「そうかい? の割にはさっきから鼻歌が出てるよ?」
「そ、そんなんじゃねぇってば!」
「ふふふ。分かりやすいな君は」
「敵わねぇなくそ」
「お相手は何処のご令嬢なんだ?」
「い、いくらお前でも言えねぇよ!」
「おや? 随分と高貴な人みたいだね?」
「今独身で適齢期なのはロレンツォ伯爵の次女かな?それともヴォルフガング公爵の末娘とか?」
「やめろってば!」
「ふふふ。剣術ではてんで敵わないからね。日頃のお返しってやつさ」
「剣術ならいい線いってると思うぜ? お前の方こそどうなんだよ? 貴族のご婦人方には好評じゃないか」
「あれはただの火遊びさ」
「それに僕の相手は自分では選べないよ」
「生まれた時には
「そうか、悪かったな」
「いいんだよ」
「許嫁、か……」
「お前さえ良ければ俺の妹をくれてやっても良かったんだがな」
「……火遊びなんて言ったら不味かったかな? お兄様」
「うるせぇまだ早い! 俺に剣術で勝ってから言え!」
「それに貰ってくれたら火遊び禁止だからな!」
「あははは! シスコンなんだか分からないお兄様だね」
「そんくらいお前の事信用してるって事だよ!」
「ありがとうロベルト」
「おっとこんな時間だ」
「舞踏会にお呼ばれしててね失礼するよ」
「火遊びすんなよ、弟くん」
「あははは。ご想像にお任せするよ、お兄様」
「へっ! 言ってろ」
「明日は帰国なんだから程々にしろよな!」
「分かってるさ」
「面倒事も終わって久しぶりの俺達の故郷なんだからね」
「あぁ。帰れば初夏には聖堂も再開する。忙しくなるな」
「また、明日な」
「あぁ、また明日」
――『四千夜ぶりの
何日ぶりだろうか。そう問うと
半年も待ったのに四日も待てないのかと言うと、お互い様でしょと君は頬を膨らませた。
また半年会えないんだな。いっそこのまま君を連れて…。
そう言うと、あと半年の辛抱よと君は答えた。
では十八万日の間君に会える日を待っているよ。そう言うと、それじゃあおばさんになっちゃうわと微笑んだ。
聖堂の再開。復興のお
五年前は夢物語みたいな話だと笑いあってた未来がもうすぐそこまで来ていた。
次回 『empty chair その二』
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