第8話 けふはおわかれの糸瓜がぶらり

「待たれよハイセスアイゼン卿! ロベルト・ハイセスアイゼン炎竜討伐伯!」


「ただロベルトとお呼び下さいフランツ王弟子殿下」


「ふむ。では私もフランツで構いませんよロベルト」

「これから執政官として貴方とともに復興に尽力させて頂くのです。敬称などやめにしましょう」


「わかりましたフランツ様」


「おっと様も結構です」

「二人の時はただフランツと呼んでください」


「ふふふ。王宮でお見掛けした時よりフランクな方なんですね」


「いやぁ、所詮フランツ・フォン・『フロス』=ロートリンゲン、所謂傍流ぼうりゅう、王家に何かあった時のスペアでしかありませんから」

「先々代陛下の弟の子供。王位継承権も下から数えた方が早いですし」


「そんなものですか。私からすれば雲上人そのものですがね」


「そんなもの、ですよ」

「実は今回の執政官も自ら志願したのです」

「どうも『あそこ』は息苦しくて」

「私は野山に入ってフィールドワークでもしてるのが身の丈に合ってるのですよ」


「急に親近感が湧いてきましたよ」

「なにせ元は『大鬼』が跋扈ばっこする痩せた土地でした」

「彼奴らを先々代と先代当主、それに我らが鉄血騎士団が山脈の向こうへ押し返して久しいとは言え」

「さらにそれに加えてあの炎竜でしたから」

「正直、王家の方をお迎え出来る様な状況ではないもので」


「勿論、覚悟の上です」

「それに、曾祖父殿が転籍なされた時止められ無かったのは私の祖父の責任でもあるのですから」


「やめてください、そんな昔の話」

「それより覚悟といいましたが」

「先だっての被害で我々の寝所には屋根もありませんからね」

「炎竜に屋根ごと持っていかれまして笑」


「それは星が綺麗に見えそうだ!」

「王宮では尖塔と篝火かがりびが邪魔で星があまり見えませんでしたから」


「ふっふっふ」

「貴方が執政官で良かった」

「これから宜しく頼むよフランツ」


「あぁ任せてくれロベルト」



――――――――――――――――――――――――――――


「行ってしまわれましたね姫様……」


「ふん! いつも土塗れで王家の品格もない男よ、いなくなってせいせいするわ」


「従兄妹同士なのですからそこまで仰らなくても…」


「男共なんてやれ戦争だの、剣がどうの魔獣がどうの! 野蛮な話ばかりだもの!」

「あのハイセスアイゼンとかいう辺境伯なんて最たるものよ! シーズンになっても王宮にも舞踏会にも『大鬼』がどうのと託けて出てこない! 王家を何だと思ってるのかしら!」

「まぁ? あの男はその意味ではマシな部類だけど、議会でのオドオドした態度ったら情けない事この上ないわ」

「王家の品格というものを野山に忘れてきたのではなくて?」


「相変わらずですね……」


「ふん!」

「それにねリリー?」

「私には其方そなたさえ傍に居てくれればいいの」

「この気持ち分かっているでしょう?」


「な、なりません姫様……」

「我々貴族の子女は家の為嫁がねばなりません…それは王家とて同じはず…」


「分かっています。あと数年後には共和国に嫁ぐのですから」

「でもねリリー、その間だけでも……」

「何も野蛮な男共と違って穴ぼこを空ける訳ではないのですから……」


「…姫様…」


「……」




――――――――――――――――――――――――――――


「やあやあロベルト! 荘厳な王宮があんなにも遠く見える! 君も見てみたまえ!」


「フランツ、落ち着いて」

「次の街まで随分と掛かるんだ体力が持たないよ」


「分かっているさロベルト」

「でも抑えきれないんだ!」

「ずっと王宮で暮らしていたからね」

「フィールドワークなんていうけど子どもの探検みたいなものでさ」

「こんなに遠出するなんて初めてなんだから!」


「ふふふ。半年に一度は王宮に報告しに俺と戻るんだ」

「短い別れだよ」


「はぁ。そんなこと言うなよロベルト……」

「僕はずっと君の故郷にいても良いと思ってるんだから」


「ありがとうフランツ」

「そうだ、向こうに着いて落ち着いたら『大鬼』共の集落跡に行ってみるかい?」


「何だって! それは凄い!」

「話には聞いたがあの牙の持ち主だろう? 王宮に飾ってあるんだ!」

「それに炎竜も骨格標本にしてあると聞いたぞ!」


「あぁ、まだ途中だがね」

「全部終わったら王宮に献上するつもりさ」


「勿体ないなぁ」

「君の手柄なんだ傍に置いておけばいいのに」


「いや、いいんだ」

「アイツは叔父上や騎士団の同胞の敵だから……」

「手元に置いておきたくないんだ」


「そ、それは済まなかった……」

「配慮が足りていなくて……」


「いいんだ」

「済んだ話、さ」

「……そうだ」

「今度、俺達の街に『樹人』が来るんだぜ」


「『樹人』? 樹人てあれかい? 『世界樹の守人』の?」


「あぁ、南の獣人の国の世界樹へ巡礼した帰り道らしい」


「そりゃ凄い! 王国の世界樹へ巡礼に来た時はタイミングが合わなくてね」

「また楽しみが増えたよ!」


「運が良ければひと月程滞在するはずさ」

「復興で忙しいが拝謁はいえつの時間くらい取れると思うぜ」


「待ちきれないよ! 急ごうロベルト!」


「うわ! 待ってくれよ! そんなに飛ばしたら持たないって言っただろ!」


「ははははは!」

「次の街まで競争だよ! ロベルト!」


「やれやれ……」



次回  『moonlight dancehall』

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