第7話 一度きりのラブ・コール

『死霊術』


――その真っ白なかんばせに、絶望と発狂を。


怨嗟えんさの油に溶かし込み、幾重いくえにも幾重にも塗り込めていく。


大胆な構図と精緻せいちな筆使いで十重とえ二十重はたえに丹念に。


仕上げにむくろの額縁に収めれば死霊の出来上がり――



『死のメガロポリス』


――かつては大陸一の栄華を誇った王都の現在の呼び名である。


 四方に領土拡大による強大な壁を幾重にも築き、その外郭にも街がいくつも存在する巨大都市。

 複数の河川を有し、肥沃ひよくな土地からは数万の民をまかなう穀物が今もたわわに実っている事だろう。

 王宮街にはいくつもの尖塔せんとうが己が栄達を背比べするかのように突き出し、荘厳な王城をさらに着飾っている。


 建国の地である旧王宮は現在の王宮とは些か外れた山の中腹にあり、その機能を失って尚、臣民を見守る様にそびえ立っている。

 烏瓜殿からすうりでんと呼ばれ王国の象徴とされたその建物は、現在悪しき不死人の住まう剣呑けんのんな館へと成り果てていたのだった――


『マリア・セント・リコサス・フォン・ロートリンゲン』


ーーー烏瓜殿の主にして、この花園で一番美しい花と呼ばれた王国第一王女その人であるーーー



「リリー?私のリリーはどこ?」


「うふふ。ここに居りますよマリア様、いえ姫様」


「あぁそこにいらしたのね我が愛しの馬酔木あせびの君」



「おや姫様」

「私めも居りますのに」

けてしまいますね」


「そうねフランツ、リリー。貴方達さえいてくれれば妾は何も要らない」

「ずっと、ずっと傍に居てちょうだい」


「「御意に。我が愛しの烏瓜の君」」


「そう言えば忌々しい諸公連盟に動きがあるとか?」


「はい。どうやら兵士を募っているようです」


「では彼もいらして頂けるのかしら?」


「はい。既に使いをり我々の居所を伝えております」


「そう。ご苦労様」

「ふふふ。楽しいパーティーになりそうね」


「御心のままに」


「あぁ……ロベルト・ハイセスアイゼン炎竜討伐伯卿。我が金獅子の聖なる爪。鉄血騎士団元団長様。逢瀬おうせにいらしてちょうだい」

「貴方の馬酔木が根腐れして仕舞しまわぬ内に、ね」

「うふふふふ」



次回 『けふはおわかれの糸瓜へちまがぶらり』

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