第4話 邂逅、鞆の浦のむろの木
――ここはどこだ。
体が思うように動かない。
あの時、瞬きの間に
裏切り者。
元の名など口にもしたくない。
彼奴のせいで目前まで迫った統一の大願は裏切りの火の粉となり消え失せた。
徐々に思い出してきた。
馴染んできた。というのが正しいのか。
「――よ」
「では参るぞ!」
「国盗りのやり直しじゃ!」
そうだ。殿は…。我が主はご無事であろうか。
あらん限りの声でその名を叫ぶ。だがその声は自分で思うよりもか細く、
その時、奇妙な事に気付く。
闇夜に浮かぶ
はじめは定まらぬ焦点のせいかと思った。
違う。確かに二つの月がぬばたまの闇夜を切り取るように浮かんでいる。まるであの両の
「『刻の特異点』よ。お迎えに上がりました」
――『異国の
通常の数倍もあろうかと思われる
老婆とも老爺ともとれるその『異形』は『黒い穴』より現れた。
金属製の
何とか動きだした右腕で辺りを探る。
ふと、手元に覚えのある感触。
愛用の十字槍。
共に主に仕えた父の形見であった。
藪より出でたる何かが飛び掛かってくる。
二つの月を背にしているため
必死にそれに向かって槍を突き立てる。
我が十字槍は、恐ろしい
「常に残心を怠るな」
父上の遺した言葉は
囲まれた。
およそ三匹。
先鋒を
体さえ動けばものの数に非ず。この様な窮地など幾度も主と共に乗り越えて来た。
が、ここまでか。
主と共に『黒い穴』を越え、
せめて召される時は主の
「グギャッ!」「ギャッギ!」
「☆×♡¥@&」
「★◑▼⊿♤◁◁」
「ギャオオオオオオオオオオン!」
「♡¥@&!?」
助かったのか?
しかし、この奇妙な出で立ちの者どもは…?
――――――――――――――――――――――――――――
「おーい!生きてんのか?」
「間に合ったようですね」
「しかしロベルトさん。私の長い耳でも聞こえなかったのによく気付きましたね」
「……たまたまだ」
「なんだコイツ? 言葉分からないのか? おかしな格好もしてやがるし、外人か?」
「おーい! ハロー?」
「聞こえてはいるみたいですが……。共通語が分からないのですかね? 獣人の言葉なら大抵は分かるのですが」
「お二人は他に何か喋れますか?」
「アタイに聞くなよな! 文字すら書けないってのに!」
「……俺も共通語だけだ」
「参りましたね」
「あ・な・た。な・ま・え・は? な・ま・え」
「…モ」
「お?」
「…モ…リ」
「モーリー?」
「おぉ伝わりましたか」
「モーリーさん変わったお名前ですね」
「モリ…ランマル」
「げ、苗字かそれ?」「面倒くさい事はごめんだよ」
「……ひとまず街に連れて行こう」
「……かたじけない」
「何言ってっか分かんねぇなー」
――「乱よ。もしもの時は国一番の大樹の下で待て」
「それまでこれを預けておく」
「殿!? これは殿の御愛刀に御座います!」
「それに乱は既に賜ったこちらが…」
「それは脇差しであろう。太刀も無ければ心許ない」
「それにワシの刀はまだある。この長谷部などな」
「必ず返せ。故に下賜はせぬ。預け置くと申したはずよ」
「はっ! この乱、一命に換えても『不動国行』、『不動行光』の二刀と共に殿の元に馳せ参じまする!」
「ふっ。では参るぞ!」
「国盗りのやり直しじゃ!
「はっ!」――
「あ、気絶しやがった」
「全く運のいい野郎だな。オッサンが『子鬼』の気配を察して来なきゃお
「それにしてもおかしな格好ですね」
「この槍やこの剣?ですかこれ?」
「見たこともない形です」
「苗字まで持ってるし、面倒な事にならなきゃいいけどよ」
「まぁさっきの『子鬼』で小遣い出来たし、また1杯やりにいこうぜ!」
「ちょ、ちょっとこの方の手当てが先ですよ!」
「へへっ分かってらい!」
「……もうすぐ街だな」
「お! 灯りが見えてきたぜ!」
次回 『四重奏によるインテルメッツォを双月に捧ぐ』
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