第6話 ケモミミ少女と空の旅2

 獣人の少女はお辞儀をした後に自己紹介をする。


 「助けていただきありがとうございます。僕はポポアです。獣人で種類は犬種です。どうぞよろしくお願いします」


 ポポアは栗色の髪をボブカットにした少女で身長は小さく、まるで10代の子供のようだ。

 肩からバッグをかけており中には地図が入っていた。

 身なりは清潔感があり民族衣装であるポンチョを着ていた。

 ポンチョには緑と赤、白のラインが描かれている。

 

 「へー、ポポアちゃんか。私はブラン。よろしくねポポアちゃん」


 ポポアは名前を呼ばれて少し頬を赤らめる。

 

「ポポアちゃんだなんて。僕は2人のように人族でもなければ強くもきれいでもない。友達にしても不釣り合いですよ」


 言葉ではそう言っているがポポアのしっぽは正直で少し嬉しそうに左右に揺れていた。


 「そんなことないよ。私、ポポアちゃんと友達になりたい。ね、いいでしょ」

 「ブランさんがいいならそれでいいです」


 ブランとポポアは手をつなぎそしてハグをする。

 ノワールはブランの頭を優しくなでる。


 「良かったわね、友達ができて」

 「あのー、お姉さんの名前は何て言うんですか?」

 「私はノワール。年齢は17歳でブランの姉よ」

 「よろしくお願いしますノワールさん」


 3人の自己紹介が済んだところでアルベリックが腕時計を見る。


 「そろそろ行きましょう。さっきのハプニングのせいで時間が無くなってきました」


 魔導船の発車時刻まであと10分ほどだった。

 昼食をとっている時間は残されていない。

 ブランはさみしそうにポポアから手を放す。


 「ごめんね。私たちはいかなくちゃいけないところがあるんだ」


 初めてできた人族の友達ともう別れることにブランはとても悲しんだ。

 しかしポポアが引き留める。


 「待ってください。もしかして国家処刑人育成第1学校に行く予定ですか?」

 「そうだけど」

 「実は僕もなんです。僕も入学するためにここまで来たんです」

 「えー!! じゃあ、一緒に学校行けるってこと?!」

 「はい、そうなのです」


 2人はその事実に手をつなぎながら飛び跳ねて喜ぶ。

 しかし時間は残されていない。

 

 「では行きますよ」


 アルベリックはが駆け足で魔導船の出発口である4番ターミナルに向かう。

 4番ターミナルにはエスカレーターを乗り継いで向かう。

 人混みをかき分けて走る。

 ポポアはブランたちの速さについていくので必死だった。

 だが何とか4番ターミナルに到着した。

 幸いまだ出発はしていなかったようだ。

 

 「ふーなんとか間に合った」

 「そうみたいね」


 するとアルベリックが髪の毛を整え3人に向き直る。


 「ここでお別れです。3人とも頑張ってください。すでに学園生活はスタートしているのです。それは過酷なものとなると思いますが同時に楽しいものでもあります。では」

 「ありがとう、アルベリックさん」

 「服ありがとうね!!」


 アルベリックはターミナル受付口の前で小さく手を振った。

 3人は受け付けの乗務員のお姉さんに推薦状を見せる。

 推薦状はチケット代わりとなっていてこれを持っていないと魔導船には乗ることができない。

 お姉さんは小さく会釈えしゃくして機内入口へと案内する。

 そして機内につながる通路を抜けて鉄のドアをくぐるとそこは魔導船の客室につながっていた。

 客室の座席は特に決まっているわけではなく完全自由席となっていた。

 

 「ねえ、窓際座ろポポアちゃん」

 「いや、僕は」


 ポポアは少し嫌がるそぶりを見せる。

 それに気づいたノワールが窓際の席に率先して座った。

 

 「ポポアちゃん高いところが苦手なのよね」

 「はい。お恥ずかしながら」

 「別に恥ずかしがることではないわ。さあ座りましょ」


 ポポアとブランは手をつなぎながら座席に座る。

 ポポアの手は若干湿っていた。

 高所恐怖症で高いところにいると冷汗をかいてしまうのだ。

 だからブランはポポアの手を離さない。


 「大丈夫私がついているから」

 「は、はい」


 ポポアの耳がシュンとなる。

 本気で怖がっているのだ。

 そこでブランは持ってきたリュックサックの中からお菓子を取り出す。

 出したのはボテチだ。

 

 「これ食べよう。きっとおいしいよ」

 「お、お菓子?! そんな高価なものは食べれませんよ」


 (お菓子って高価な食べ物なのかな?)


 獣人族は日本人同様街の外で暮らす。

 ポポアは森の中で育ったゆえにお金を使わない生活をしてきた。

 ポポアのいた村では物々交換が主流なのだ。

 なのでお金を使ったものは今まで食べてきたことがないのだ。


 「まあまあ、そんなこと言わずに食べてみなよ。これからの生活お金を使わなかったら生きていけないよ」

 「うー。僕なんかがお金を使ったものを食べるなんて」


 口では拒んでいるがポポアの尻尾は興味津々といった様子でフラフラと左右に揺れていた。

 試しにブランがポテチを1つまみして食べてみる。

 その様子にポポアはよだれを垂らしながら食い入るように見ていた。

 

 「よ、欲には勝てません。僕にも1つください」

 「いいよ」


 ブランはポポアにポテチを1つ渡す。

 ポポアは嬉しそうに受け取るとまずは見た目を観察した。

 

 「このキラキラと光るのは塩でしょうか? さらにはなんという造形美。口に入りやすいように湾曲している。で、では、いただきます」


 ポポアはポテチを口に入れた。

 味わいながらかみ砕いていく。

 

 「どう?」


 ポポアは目がウルウルしていた。

 感激のあまり涙が零れ落ちようとしていた。


 「感動です。もう1枚ください!!」

 「まだまだあるからね。どんどん食べよう」


 ブランはリュックサックの中のお菓子を見せた。

 リュックサックの中の大半はお菓子で埋め尽くされていた。

 ポポアにとってはまさに楽園である。

 ブランとポポアはお菓子を頬張る。

 その様子を見ていたノワールは微笑む。

 ノワールはお菓子にはあまり興味がなかった。

 一切ないと言えば嘘になるがそこまで欲しいとは思わない。

 その代わり今自分が乗っている魔導船に興味があった。

 窓から見える鉄の翼には魔導エンジンが取り付けられておりそこから緑色の光が漏れている。

 魔導エンジンの中では風を操る魔法が発生しているのだ。

 それで機体の姿勢を制御している。

 燃料はソウルエナジーであり悪魔から取れる魔核を使用している。

 ノワールはその原理を上手く自分の頭で考えていた。

 そんな時、奇妙な感覚がブランたちを襲う。

 船内に伝わる妙な違和感。

 それは明らかな敵意だったがオーラが弱くて気づくのに遅れてしまった。

 吸血鬼のオーラがこの近くの空を覆っていた。

 2人は目を合わせる。

 (ここで騒いだらだめだ。ポポアちゃんや他の生徒を動揺させては返ってパニックになりかねない。お姉ちゃんなら分かるはず)

 ノワールは頷いた。

 

 「ブラン、ちょっとここの部屋熱いから機長に冷やすように伝えてきてくれる。ほかの乗務員でもいいけど」

 「うん。わかった。お姉ちゃんは?」

 「ちょっとトイレに行ってくるわ。外のほうが涼しいかもしれないし」


 2人は席を立った。

 ポポアは不安そうにしていたが「すぐに戻るから」と言ってブランは操縦席に向かった。

 異常を伝えるためである。

 ノワールはトイレに行くふりをして魔導船の上の階に上がった。

 外に出て異常を確かめるためだ。


 まだ違和感の正体に気づいている人はいない。

 多少戦ったことのある人なら少し妙に感じているが吸血鬼の気配だと断定した者はいない。

 その2分後、機内にアナウンスが流れる。


 『機長のエドワードです。現在エンジンのソウルエナジーが不安定になっているため念のため救命ジャケットを着てください。そして慌てないで乗務員の指示に従い安全を確保してください。シートベルトをしっかりと締め安全な姿勢を確保してください』


 機長のアナウンスが流れると生徒たちは乗務員の指示に従い席に座った。

 中には明確なトラブルの理由を聞くものもいたが乗務員は「エンジンには予備がありますのでご安心してください」と伝えた。

 機長に伝えたブランはノワールを追いたいところだったがここにはたくさんの生徒が乗っている。

 それにポポアをこれ以上1人にはできないため客室に残ることに決めた。

 もし吸血鬼が乗り込んできた際に迎え撃つためである。


 一方、ノワールは機内のダクトを通り機体上部のハッチを開ける。

 物凄い風圧で機内から空気が抜けていく。

 ゴウゴウと風の音が聞こえる。

 ノワールは顔だけを外に出して辺りを見渡す。

 幸いノワールたち姉妹は魔法使いに体を極限まで鍛えられている。

 酸素も風も全く影響しない。

 これは姉妹の自力の力を鍛えるためである。

 戦技や魔法に頼らない本来の体の力だけで敵を圧倒できるようにするために魔法使いから仕込まれたのだ。

 しかし外には太陽が昇っていた。

 ノワールは弱体化を防ぐために魔法をかける。

 防御魔法【サンシールド】だ。

 本来魔法は詠唱と魔法陣の生成を必要とするが姉妹にはそれがいらなかった。

 ソウルエナジーは精神力の結晶であり姉妹は自身の精神に念じるだけで戦技や魔法を発動できる。

 これは吸血鬼が得意とするものだがノワールたちは特別でそれを瞬時に発動できる。

 ほかの吸血鬼は若干のタイムラグが存在しているのだ。


 【サンシールド】で太陽の光をシャットアウトするとノワールは機体の上部に体を出す。

 機体には何もなかったが上空に翼をもった人型の影があった。

 ノワールは蒼爵級の吸血鬼だと感じた。

 蒼爵級は最も弱い吸血鬼。

 しかし上空には50を超える吸血鬼が旋回していた。

 今にも機体に取り付いて攻撃を仕掛けようとしている。

 だがこれは異常だ。

 本来太陽に弱いはずの吸血鬼が空に体をさらしている。


 「数が多いわね。こんなところで大きな魔法は使えないし」


 ノワールが吸血鬼と睨みあっていると後ろから声がした。


 「【エア・コントロール】【ライトアーマー】」


 一瞬ブランかと思ったがブランなら詠唱は使わない。

 ノワールは振り返るとそこには桃色の髪をした人族の少女が立っていた。

 目はきれいなピンク色で体はすらっとしている。

 軽装で動きやすそうな服装であり手には小さなナイフを持っていた。

 

 「手伝いますわ」

 「誰あなた?」

 「自己紹介は後ですわ。まずはこの鬱陶うっとうしいハエを落としますわよ」


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吸血姉妹は世界を救う~復讐の物語~『最強の魔法使いに育てられた姉妹は吸血鬼を裏切った同族を殺す』 大天使アルギュロス @reberu7

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