第2話 古城にて

 その古城はとっくに朽ちていて、不気味でいかめしい大門は半分壊れて倒れていた。


 先ほどよりも鮮明になった暗闇の中で、僕は古城に侵入した。


 朽ち果てたエントランス。

 壊れ、床に落ちたシャンデリア。


 切りさかれたままのカーペットに、柱や壁、天井にもおぞましいほどの、傷……


 それが獣の爪や牙でないことを、僕は直感的に悟ることができた。


 人だ。


 武器を持った人。剣や鎧で武装した、たくさんの人が、この古城に踏み入り、そこらじゅうを踏み荒らし、剣や槍を使って、『誰か』を殺そうと……


「う、ぁ、あぁぁぁ……!」


 頭が痛い。吐き気がする。

 自然界の悪意なき暴力よりも、人が同じ知的生命体に向ける暴力の方が、僕にとってはおぞましいものだった。

 ここにいるだけで吐き気がこみあげてくる。こんな場所に入るんじゃなかった。逃げよう、今すぐ、この城から……


「ここに入ったぞ!」


「!?」


 見つかった!


 どうしようか考えているあいだに、古城の周囲はあっというまにかがり火に囲まれてしまった。


「騎士団のみなさん、お願いします!」


 ……騎士!?


 知っている。僕は……そうだ、僕は、僕が追われる理由を知らないけれど、僕自身のこと以外なら、ちゃんと知っている。


 騎士団というのは、『武装した人たち』だ。

 集団で、剣や槍を使う戦いの専門家……


 ガチャガチャという足音がたくさん響き、それが僕のいる方へと近付いてくるのがわかった。

 悩んでいる時間はない。


 どうにか、この古城の中で、騎士団をやりすごさないと……


 ああ、本当に、なんで僕は、こんな大勢に追いかけられているんだ!?

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