9 苺とミケロ

9 苺とミケロ


「熱いなあ。夏なのに、なんでこんなにガンガン火を焚いているんだ?」

 ミケロは呟いた。

 部屋に居たみんな、ミケロの母さん、ミケロの父さん、ルルカの父さん、そしてルルカは、ぎょっとしてミケロを見た。

「ミケロ」ミケロの母さんが、ミケロの父さんの腕を力いっぱいつかむ。

「みんなして、こんな熱い部屋に集まって」

 ミケロはゆっくりと頭を動かして、みんなを見た。

 ちゃんと目が覚めた顔じゃないけど、ぼんやりとして目も潤んでいるけど、ミケロが眠りからさめた。

「ミケロ!目が覚めたのね」

 ルルカがベッドに走り寄る。じっとミケロの顔を見る。

「あっ、汗。ミケロ汗をかいてる」

「何言ってるんだよルルカ。当り前じゃないか。こんなに熱いのに……うわっ」

 ミケロは突然ルルカに抱きしめられて悲鳴をあげた。

 みんなが涙を流しながら笑っている。

「なんだよ。どうしたんだルルカ、苦しいよ」

 ルルカの母さんが、ミケロのそばに座り、その手をとって話し始めた。

 すっかり話を聞いたミケロは、顔をくしゃくしゃにして泣いていた。

 ありがとう、ありがとう。何度も何度もありがとうを言った。

 それから、ベッドの枕の下から、小さな箱を取り出すと、

「そうだ、これ」

 ルルカの手にのせた。

「これは?」

「開けてみなよ」

 ミケロが、はにかみながら言った。にっこり微笑む。

 ルルカは言われた通り、小箱のふたをあけた。

 中に入っている物を見て、ルルカは驚きの声をあげた。

「ミケロ、これ……」

「ルルカに、本物を見せてあげたかったんだ。本物の月の涙を」

「だから、だから夏休みに入ったらすぐに家に帰ったの?」

「そうだよ」

「私のために、月の涙をさがしてくれたの?」

「うん」

「ミケロの馬鹿っ」

「うわっ!」

 ルルカに抱きしめられて、ミケロはまた悲鳴をあげた。

 金砂の奥深く眠る、月の涙。

 涙の雫のかたちをした、琥珀色に輝く月の涙。

「ありがとう、ミケロ。……でもあなたはどうしようもないおバカさんよ」

 ルルカはもういちどミケロを抱きしめ、涙をこぼした。

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