2 金砂病 凍っていくミケロ
2 金砂病 凍っていくミケロ
まっくろ茸で作った薬を飲むと、ミケロはまた深い眠りに落ちていった。
薬を飲ませるだけでも、大変な仕事だった。眠っているミケロの頬をひっぱたいて無理矢理目を覚まさせ、それでなんとか薬を飲ませたのだ。
ミケロの父さんと母さんが、眠っているミケロのそばにじっと座っている。他に何も出来ない。ただ見守るだけ。
お医者であるルルカの父さんも、まっくら茸の薬を飲ませた後は、何も手の施しようがなかった。時間を置いて、またまっくら茸を飲ませるだけだ。父さんはううむと唸って腕を組んだ。
ゆっくりと、眠ったまま躰は凍っていき、やがてミケロは……。
「死んじゃ駄目、ミケロ!」
ルルカは、眠っているミケロを揺さぶって叫んだ。
「目を覚まして!」
ルルカは何度も呼びかけた。
呼びかけ、叫んで疲れ果て、いつの間にか涙と一緒に眠りこんでしまった。
夢の中で、ルルカはののしり続けていたようだ。
ミケロを苦しめる金砂病に、狡くてすぐに噛みついてくるクレーターもぐらに、ミケロを病気にしてしまった神様にも、ちょっぴり文句を言ったかもしれない。
目が覚めると、部屋の向こう側に眠りつづけるミケロが見えた。ぼんやりした視線を巡らすと、ミケロの父さんとルルカの父さんが顔を突き合わせて、小声で話し合っているのが見えた。
「やはり、それしかないでしょう」ルルカの父さんが頷いた。
「やはりそうですな。マルウバに、全てを託すしかないだろう」
砂漠の狩人、灰色砂漠耳長月蛙の王様、ミケロの父さんが同じように頷いた。
ふたりとも真剣な面持ちで、暗い眼の奥にかすかな希望の光りを宿している。
「マルウバ?」
どこかで聞いたことがある名前。誰から聞いたのかしら?
「マルウバは今どこに?」とルルカの父さん。
「砂漠を少し行った、貢ぎの岩窟に居る。近くにマルウバがいるのだけが救いだ」
「そうか、瑠璃藻草の採取に来たんだな。ジプシーが作る薬には欠かせないからね」
父さんたちの話で思い出した。ジプシーの大長老マルウバ。そうだ、百年は生きていると言われる、大婆マルウバだ。
ルルカは飛び起きた。
「マルウバなら、ミケロの病気を治せるの?」
「おや、目が覚めたのかい、ルルカ」
ミケロの父さんが、穏やかな口調で言ってルルカを見た。
ルルカはずんと立ちあがり、父さんたちのそばへいった。
「マルウバなら、金砂病を治す方法を知っているのね?」
ルルカは勢い込んでたずねた。興奮で足許がくらんくらん揺れている。
「落ち着いて、ルルカ。いいかい、マルウバならなにか知っているかも知れない。そう話していただけだ。マルウバが金砂病を治せるかどうか、まだわからないのだよ」
父さんがルルカを諭した。
「でもマルウバのところへ行くんでしょ? 私も行くわ。ぜったいに行く」
ルルカは譲らなかった。ミケロを救えるかもしれない、そのことしか頭になかった。
「ありがとう、ルルカ。私の息子のことを、心から心配してくれるんだね。ありがとう」
ミケロのお父さんが、ルルカの手を取りしっかりと握りしめた。
「行きましょう、マルウバのいる岩窟へ」
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