第3話

 ユウナの作る食事しか取らなくなったのは、いつからだったのだろうか。彼女は料理をつくるのが上手かった。

「結局、自分の好きな味が得意料理になるのよ」

 それまでの僕の食事といえば、適当そのものだったと思う。何か腐りにくそうな乾いたもの。ナッツ類やら、菓子パンやらを買って、食べる。その程度しか生活能力がなかった。

 彼女は辛い料理を好み、なんでも唐辛子を乗せていた。僕はあまり辛いものが得意ではなかった。けれど、彼女の作ってくれた料理は、不思議となんでも美味しく感じた。


 冷蔵庫を開ける。ユウナの作り置きが置いてあったりしないだろうか。

 冷蔵庫の中はがらんと空いている。料理などはない。いや、それどころか、調味料もない。唐辛子なんかもない。なにもない。

 キッチンまわりを探っても、塩も砂糖もない。

 ユウナが捨ててしまったのだろうか。


 僕は家から1番近いコンビニでおにぎりやら飲み物やらを買った。粘土を食べているようで、まるで味がしない。少し咀嚼して、そのまま直にゴミ袋に吐き捨てた。

 僕の生活のどこを思い出しても、ユウナが居た。今は、何もできやしない。ユウナが居ないから。

 しばらく突っ伏したまま泣いていると、塩味が口の中に広がった。

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