世界を救う者
そして数ヶ月後、ペンダント型端末が与えてくれる情報の海から上がってきたサトミは、
(こんな辛い現実から、私は逃げ……る)
サトミは部屋の窓にゆっくりと視線を向けた。
そして、しばらくの間、窓の外を見つめ続ける。
その場に力なく立ち上がると、脱力した足取りで窓に近づいていき、窓をゆっくり開けていく。
外の景色はいつもと同じように雨が降り続いていて、雨粒が大地を小さな殴打を繰り返していき、破裂音を響かせ続けている。
それから、日差しが少ないため薄暗くなっている街並みがあった。
空は灰色、下も灰色の大地が広がっている。
また、人数は少ないけれど、小さく見える人々が道路の上を行きかっていた。
サトミは地面を凝視し続け、
(うぅ、怖い! 心が、いや体全体が危険信号を出しているのが分かるっ! 悲鳴を上げている! 私が私に対して拒否してきている! その証拠に足がすくんでる! でも、だからこそ、ここからなら確実に逃げれる、はず)
深く息を吸い込み、心を静めさせながら、
(救いのない
『トゥインポーン』
突然家の中に鳴り響くチャイム。
サトミは目を見開きながら振り向き、
(えっ、だれ? こんな時間に私に用事? ……って、そんなわけないよね。家族に用があるんだよね)
「こんにちはー! 突然失礼します、ルッスターウーの者ですが、お邪魔しますよー」
若い女性の声が途切れた瞬間、部屋の扉が勝手に開いた。開けられた。
そして、扉が横にスライドしていくと、外には
白髪女性は顔を険しくさせて両手を大きく横に振り、
「ストップストーップ! サトミちゃん待って、止まって! ウェイト!」
白髪女性は二十代前半の容姿をしていて、身長は百六十センチメートル程。
前髪は目の上まで垂らし、後ろ髪をうなじで切りそろえていた。
目じりは少し吊り上がっていて、黒い瞳を宿している。
また、カジュアルな半袖とショートパンツで身を包み、胸には少し大きめなふくらみが出来上がっていた。
サトミはしばらくうろたえた後、体を硬直させて白髪女性を凝視し、
「え、えっ!? だれですか!? というか、鍵かけていたはずなんですが!?」
「あっ、わたしはルッスターウーっていう組織の者の、アヤカっていいます。よろしくね。鍵はね、わたしの超能力でちょちょいのちょいって開けちゃったよ」
「え、ルッスターウー? 超能力?」
不安そうな顔を浮かべながら小首をかしげるサトミ。
サトミと名乗った白髪女性は苦笑いを浮かべながら、
「あー、やっぱりそういう反応になっちゃうよね、うん! えーっと、ルッスターウーっていうのは、最近創設された組織で、わたしはその組織に所属するアヤカっていいます。あらためてよろしくね。わたし、わたしたちが所属するルッスターウーは、サトミちゃんのような迷子になっている人を救い出す事業を行っているんだよ」
「……え、あぁ」
「で、サトミちゃんのおうちの玄関は、わたし、というか、ルッスターウーの特権で、なんと自由に開けることが許されていまーす! 国家権力すごいでしょ、驚いちゃったよね? ごめんね」
「はい……」
真剣な表情を作りながらゆっくり頷くサトミ。
アヤカは明るい笑みを向けながら、
「急がなければいけないのに、余計なことで
「えっと、あの……気になることがあるんですけど。迷子ってなんですか? それに、急がなければいけないことってなんですか? なんで私の家に来てるんですか?」
アヤカは強張った笑みを作りながら頬をかき、
「もちろん、迷子は、その、サトミちゃんのことだよ」
「えっ。私、今自分の家に居るんですけど……」
アヤカは背中で手を組みながら、小さく首をかしげて、
「うーん……人生の迷子?」
「私……が?」
「うん。だって、サトミちゃんが訴えてたから。訴えてくれたから見つけれたんだよ」
「え、私なにもしていませんけど……」
アヤカがペンダント型端末の表面を触ると、端末が前方に長方形の映像を宙に映し出す。
映像には文字と様々な画像が映し出されている。
アヤカはサトミに向けて優しく微笑み、
「サトミちゃんのストレス、負の感情を感じ取った端末が教えてくれたよ」
「あっ……」
サトミは首から下げているペンダント型端末を軽く握りしめ、見下ろす。
アヤカはゆっくりサトミに近づいていき、
「さぁ、サトミちゃん。この苦しい状況から逃げ出そう! もちろん、わたし、わたしたちが全力でサポートするから、一緒に逃げ出そう!」
「えっ、でも、突然の事過ぎて……」
「むずかしいことも全部ひっくるめて、細かい部分までわたしたちが全部手助けするよ。だから、逃げ出そう! 自慢じゃないけど、心の傷跡はサトミちゃんよりわたしの方が多いから、安心して!」
「逃げるって、どうやって?」
「
サトミはたじろぎながら、視線を部屋の中や床に
(どうしよう。よくわからないけど、アヤカさんがすごく優しいのだけは分かる。このまま、身を
サトミはしばらく部屋の隅に視線を固定させたまま沈黙を続けた。
そして、まぶたを閉じて、雨水を目から降らしながらゆっくり頷いていく。
アヤカはどこか遠くの方を見据えながら人差し指を立てて、
「エンディングは流さないよー! わたしたちの活躍は、これからなんだからね! ……どうしても見たい? しょうがないなぁ、メインメニューにスタッフロールを追加しておくね!」
雨に濡れ続ける人々 !~よたみてい書 @kaitemitayo
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