敏捷性と探知に優れた、癒しのマスコット

 それから数ヶ月後、サトミは部屋の窓から外の豪雨を眺めながら、


(ダメだ。このままの生活じゃダメだ。親族に助けを求めても迷惑になっちゃうし、友達に助けを――ダメだ、誰かに頼っちゃダメだ。自分で選んで招いたことなんだから、自分で何とかしなきゃ。……でも、どうしたら。……私は、自分の今後について考えることから、逃げ……る)


 サトミは一瞬顔をしかめるけど、顔を横に何度も振っていく。


 そして、自然とペンダント型端末にいざなわれ、情報の水たまりに足を踏み入れていく。






 数ヶ月後、サトミは雨空の中、ろ過傘をさしながら住宅街の中を歩いていると、道端に透明なプラスチックの箱が置いてあるのに気が付いた。


 そして、箱の中に視線を向け、


(……ん? なんでこんなところに箱が? まさか、不法投棄? ごみのポイ捨てはダメだってー。って、あれ、中に何か入ってる?)


 小首をかしげながら透明な箱にゆっくり近づいていき、一瞬驚きの表情を見せるけど、すぐに微笑み、


(わぁ、猫ちゃんだ! かわいー。……って、違う違う! 道端の箱の中に居るってことは……)


 白、黒、茶色、と三色の毛色の猫は、サトミを見上げながら、


「ミャー【お腹がすいたよー】」


「ふふ。はい、こんにちは。お元気ですか?」


 サトミはしゃがみ込み、優しいまなざしを三毛猫に向け続け、


(高い確率で、この子はここに捨てられているよね。それで、人目に付く場所に放置されているってことは、無責任な一方的な委託いたく。ついでにこの子の安全の保証なし。うぅ、なんてかわいそうなの。なんとかしなければ。私が何とかしなければ。助けてあげたい、助けてあげたいけど……。私には、この子を飼う余裕がない。そして一度関わってしまえば、今度は私が……。無理だ。助けるのは無理だ。助けることができるのは余裕がある人だけ。力が無い人が無理に動いたら迷惑になるだけ。だから、私はこの子から、逃げ……る)


「ミャー【おうちに帰りたいよ】」


 サトミはゆっくりその場に立ち上がり、顔をしかめながら三毛猫から距離を取っていく。


 それから、ろ過傘と管で繋がっていた腰に巻いていた容器を取り出し、中の液体を口に流し込んでいった。

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