探知と観察に優れた攻撃補助役

 サトミは教室の様子を眺めていき、


(うーん。私のように静かに一人で過ごしている子も指で数えれるほどはいるね)


 そして、灰色の女性に吸い込まれるように視線を固定させ、


(ん、あの子……頭から耳が生えてる!? しかも、犬の耳っ! ってことは、腰からは……やっぱり! 腰から尻尾が伸びてるよ! つまり彼女は犬人間ドヒュマンッグの子だっ! うわぁ、素敵だなぁ。後ろ姿しかわからないけれど、それでもりんとしてる雰囲気をただわせていて、周囲にちょっと緊張感があるのが伝わってくる。って、それが原因で近寄りがたい空気になっていて、彼女に声をかける人がいないから私みたいに静かに孤立しているんじゃ?)


 嘆息しながら小さな苦笑を作っていく。



 サトミは席を立ち、ゆっくり灰髪女性に近づいていった。

 そして、彼女の席の横に移動し終えたら後ろで手を組み、少し前かがみで、


「こんにちは。今なにしてるところなんですか?」


「べつに何も。ぼーっとしてただけ」


「ほんとに? 何も考えないでただぼーっとしてました?」


「それどういう質問?」


 灰髪女性はサトミを見据えて、めた笑いを浮かべながら肩をすくめる。


 サトミは天井を見つめ、乾いた笑みを浮かべながら頬をかき、


「あはは。私の場合は考え事するとぼーっとしてる場合が多いからね。ちょっと聞いてみちゃいました。ところで、お名前はなんていうのかな?」


「エリナ」


「うんうん、エリナちゃんね。私はサトミっていうんだ、よろしくね」


「うん、よろしく」


 エリナと名乗った灰髪女性は、そっぽを向きながら軽く手をあげて挨拶する。


 サトミは視線をエリナの頭部についている二つの突起を見つめ続け、


「えーっと、ちょっと聞いていいのかわからないんだけど、気になることがあるんだ」


「聞いていいのかわからないのに、聞き出そうとしてるの?」


「えっ、いや、うーん。ダメな雰囲気を感じたから、いいよ。聞かない」


「ワタシはすでに、サトミがワタシのことについて何か聞きたがっていることを知っちゃったわけなんだけど。だから、この先もずっともやもやを抱えたまま過ごさないといけないわけ」


「そうだよね、ごめんね」


 硬い笑みを作り、視線を机の上に移すサトミ。


 エリナは尻尾と眉尻を下げながら苦笑し、


「そんな申し訳ない顔しないでよ。ただ単純に、サトミが気になっていることを話してみなってだけだから」


「うん。……あのさ、エリナちゃんて……犬人間ドヒュマンッグだよね?」


「そう、だけ、ど?」


「かわいくてふわふわしてるお耳と尻尾があったから気になってさ。尻尾は少し太めで、ふさふさ具合からして多分、犬人間ドヒュマンッグなのかなぁって思っててさ」


「鋭い観察眼だね。合ってるよ」


「うん、やっぱりそうだよね! すてきなお耳と尻尾だよねー」


 サトミは胸の前で手を組み、明るい笑顔をエリナに向ける。


 エリナは一瞬肩をすくめ、すぐに微笑みながら尻尾を立てて、


「よかったら、触る?」


「え、いいの!? 触ってもいいの!?」


「うん」


 二人は笑顔を向けあいながら、教室内ににぎやかな声を響かせていった。



 サトミは灰髪女性の垂れている尻尾を凝視しながら、


(でもなぁ、私、犬人間ドヒュマンッグの人と直接接した経験多くないからなぁ。ちゃんと会話できるかな? もしかしたら間違って相手を傷つけてしまわないかな? それに、彼女と喋ってるところを他の人に見られたら、どんな風に思われるんだろうか? というか、喋りかけていいのかな? 考えれば考えるほど不安が強くなっていくよー! ……うーん、私は、彼女に自分から話しかけることから、逃げ……る)


 サトミはエリナから視線をそらし、再び教室内の様子を観察し始めた。

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