回復役・支援役

 サトミが自分の席で気だるそうにしているところに、桃髪の女性が近づいていく。


 桃髪女性はサトミの正面に立ち、背中で手を組んで、


「どもー! いま暇してる感じかなー?」


 サトミは一瞬背筋を伸ばし、すぐに穏やかな雰囲気を作り、


「あっ、どもー」


「どうかな? これから新学期楽しく過ごせそうかな?」


 桃髪女性が眉尻を下げながら、乾いた笑みを向ける。



 サトミは腕を組みながら険しい表情を作り出し、


「うーん、初めての場所、見知らぬ場所、初めての経験、初めての人……未知のモノがたくさんありすぎて、どうなるか分からなくて不安でつぶれそうだよ」


「うーん、そっか。つまり、楽しめ無さそうってことなのかな?」


「かもしれないねぇ」


「でも、未経験のことに不安を抱くのはしょうがないとして、未経験のことすべてが悪いことばかりじゃないと思うな。だから、きっと楽しいと思える出来事もあると思うなー」


 桃髪女性は机の上を人差し指で軽く撫でまわしながら口を少しとがらせる。


 サトミは苦笑を浮かべながら肩をすくめて、


「だといいんだけど……」


「まっ、たとえ楽しくない出来事があったとしても、ウチと一緒なら乗り越えられるよきっと、うんっ! あっ、ところでお名前はなんていうのかな?」


「えっ、私? 私は、トモコ」


「トモコちゃんね、りょーかい! ウチはアリサだよー」


「よろしくね、アリサ」


「こちらこそよろしくねー。ところでさー、この学校にはお菓子を食べる専門の選択活動があるらしいんだけど、知ってる?」


「食べる専門って、えっ? お菓子を作るんじゃなくて?」


 アリサは姿勢を低くして、ひじを机の上に立てて頬に手を当てる。


 サトミも彼女の真似をし、笑顔を浮かべながら頬杖をついて会話を続けていった。



 サトミも強張った笑みで対抗しながら、


(うわぁ、明るくてふわふわした子が来ちゃったよー。どうしよう、私、会話を続けられるかな? 絶対この子のコミュニケーション能力高いでしょ、私なんかじゃ太刀打ちできないよ。きっと、私の情けなさに失望して重い空気が生まれちゃうだけだよ。そんなのイヤだな。だったら関わらなくていい。だから、私はこの子と会話を続けることから、逃げ……る)


 サトミは眉尻を下げて嘆息して、


「そうですね、はい……」


 ゆるやかに真顔に戻しながら桃髪女性の顔から視線を外し、別の生徒の様子をうかがっていく。


 それからしばらく桃髪女性はサトミの近くで気まずそうな態度を取りながらも、その場にとどまっていた。

 しかし、ついに耐えきれなくなったのか、サトミの席から無言で離れていった。

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