ここが戦場、そしてカリスマ商人

 校長先生のありがたい話を長時間聞き終えた新入生たちは、一階に備わっている一学年用の教室を目指して歩いていく。


 サトミは二組の教室に入り、顔を忙しく左右に動かしながら、


(えーっと、私の席は七番だから……ここだ。それにしても、席が少ないなぁ。つまり、同級生が少ないなぁ。ホールに居たときに薄々気づいていたけど)


 教室の中には机が並べられていて、縦が三列、横が六列、合計十八人分の席が用意されている。

 

 サトミは小さく肩をすくめながら数字の『七』が刻まれている席に腰を下ろす。

 そして、机の上に置かれているペンダント型端末を取り、物珍しそうに見つめながら、


(これが生徒に配布されるっていう最新の携帯端末だね! すごく小さめの造形で、持ち運びが楽で便利だね! えーっと、どれどれ……首から下げればいいんだね。そのまんまだね)


 円形の端末と繋がっている極細の鎖を首に引っ掛ける。

 それから、教室の正面の電子黒板に表示されている起動方法を見ながら、


(それで、ペンダントの表面を触れる、と)


 サトミがペンダントの表面を優しく触ると、端末が正面に長方形の映像を宙に作り出していく。


(おおー、映像が出た! しっかり私の名前も設定されてる! ……ん、ストレスと感情ってのはなんだろう? ストレス二十%、不安……って、えぇ、なにこれ!?)


 柔らかい苦笑を作りながら嘆息し、周囲を見渡していった。


 教室内には、移動し終えた新入学生、つまり同級生たちでいつのまにか賑わっていた。


 サトミが周囲の様子をうかがっていると、三人で集まっている女生徒たちのうちの一人、赤髪の女性と目が合う。


(あっ、目が合った。……って、あの子なかなか目をそらしてくれないんですけど!)



 サトミは勢いよく椅子を引き、すばやく立ち上がったら三人で喋っている女生徒たちに駆け寄っていった。


「どもー、こんにちは。何の話してるのー?」


 赤髪女性は一瞬戸惑いの表情を見せるけれど、すぐに笑顔を作り、


「えー? 選択活動は何にするか決めてるー? とか?」


 緑髪女性も困惑の様子を見せていたけれど、すぐさま微笑んだ顔を向けて、


「そうそう、なんだかこの学校て、面白い選択活動多いって噂だよね? って話してたところだよー」


 黄髪女性は表情を硬くさせていたけど、すぐに柔らかい笑顔を浮かべながら、


「うんうん。お菓子作りじゃなくて、食べる専門の活動もあるって聞いたよー! 絶対選ぶしかないよね!」


「作るのではなく食べる専門って……。確かに興味はあるけれども」


 赤髪女性は胸の前でこぶしを握り締め、語気を強めながらサトミに視線を向け、


「お菓子は食べるもの! 作るのは……上手く作れる人に任せればいいの! あたしたちは役目を譲るのよ! そうだよね!?」


 サトミは腕を組みながら一瞬天井を見上げて、


「うーん、うん! そうだよね、私たちは食べることに適した、選ばれた人間!」


 四人は口元に手を添えながら笑いあい、教室内に明るい笑い声を響かせていく。



 サトミは赤髪女性のことをしばらく見つめ続け、


(でもなぁ、相手と会話がかみ合うかわからないし、そもそも相手がどんな性格でどんなことが好きかすら知らない、初めましての人たちだからなぁ。私が会話に混ざっても雰囲気を気まずくさせるだけだし。だから、私はあの子たちの会話に混ざりに行くことから、逃げ……る)


 すぐに視線を別の生徒たちに移し、何事もなかったように平常心を貫いていった。

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