第4話 恋の行方
わたしは机に向かい。勉強をしていた。この手首にある新しい腕時計は陸上を引退して、勉強に勤しむのが理由で買って貰った。
出来る女性は腕時計からだとの思いからである。
今、思えばレコードプレーヤーにすればよかった。腕時計は怪我で引退を決めてからの約束であった。
そう、走れないでしょげているわたしに気を使っての事だ。そして、これはおばあさんとの約束で松田聖子のレコードを一枚貰ってきた。
その約束と言うのがレコードプレーヤーを手に入れるとの事である。
やはり、密林か……。
一万二千円。もう一度、買ってもらうか。わたしは母親に頼む事にした。
「思い出のレコードがあるの、そこでプレーヤーがないと再生できないの……」
「欲しい?」
「そう、欲しいの」
わたしは松田聖子のレコードを取り出す。
「これが思い出のレコード?」
「ええ」
む、無理があるかな。
「今、クラスでレトロが流行っているの、レコードプレーヤーを持っていないのはわたしくらい」
この交渉はスマホを買って貰う時に似ていた。
「仕方がないわね。でも、密林はダメ、売っているお店を探してから言いなさい」
それはまるで始めてのお使いの気分であった。
***
わたしは恋をしている。年下の男子だ。今日も空き教室で勉強をしていると。
恋の相手である三崎が現れる。
「先輩はもう受験勉強ですか?」
「まあ、そんなとこです」
――……。
少し会話しただけで、キュンキュンする。
「先輩、試しに近寄ってみていいですか?」
三崎が隣の席に座ると目線が合う。彼の吐息が聴こえて火照る体は完全に固まっていた。
「三崎、近いです」
三崎はわたしの言葉に何も感じないのか普通にしている。自分もマックスな演技力で冷静さを装う。
「やはり、熱があるようです」
は?
「保健室に行った方がいいです」
三崎の言葉に返すモノがなく。それでいて、近すぎた距離で完全に茹であがっている。
「わ、わたしは健康です!!!」
一分ほどの間が空き冷静さを取り戻して。三崎に言ってみる。しかし、恋の病だ。
この病治らないかな……。
「今度は目がとろんとしています」
「大丈夫、酸素が薄いだけです」
立ち上がると窓に向かい外の空気をすう。一階の空き教室は中庭に接してして緑が目の前にある。時計を見ると昼休みが終わろうとしている。わたしは三崎と離れて教室に向かう。
***
あー恋は大変である。三崎の事を考えると火照るし疼くし、困ったものです。特に授業中は顔を赤らめていると高確率で黒板の問題を解けと言われる。家に帰ったら二人の自撮りツーショットを使用して自室で性欲の用を足す。これ以上は言わないが本能の向くままである。一段落すると、萌音からメッセージが届いている事に気づく。
『祝ってやる!好きな人できたでしょ』
ややこしいメッセージだ、多分『呪ってやる』をもじって『祝って』やるなのだろが。
『祝ってやる』であっている。
『ありがと』とメッセージを返すと。
『祝い、祝い、祝い』
と、返ってくる。あーかなり嫉妬している。ここはしばらく放置だ。明日は土曜授業か……。
最近は小学校で土曜授業はプールらしい。そんなに詰め込んで教育とは何であろう。わたしは新聞を取り出して投稿欄を探す。何故、新聞かと言うとSNSでは拡散など起きないからだ。ううう不便な時代だ、新聞などで意義を伝えるなど不可能である。しかし、三崎とメッセージアプリの交換はしたい。どうすればいいのか、真剣に考える。あーこーだ言っても不器用な恋である。緊急時に必要とか、作戦を考えるのであった。
***
放課後、陸上部の練習である。わたしは部長代理の役職で陸上部の指導にあたる。それから、一走りして休憩時間の事です。コーチと三崎が話し始める。コーチの隣にいたので、当然、話が聞こえてくる。
「何故、サッカー部から陸上を選んだのだ?」
「集団行動が苦手なので」
確かにサッカー部には黄色い声援が飛ぶ。サッカー一筋とモテたい組に分かれる。
「それで一年でレギュラーか……」
いるいる、何でもできてモテる人が。それでいて、メンタルが弱い事がある。
「それは、メンタルの故障だ、今の時代は誰も責めない」
部活動も変わってきているらしい、コーチの様な人が顧問の教師に代わって練習の指導をするのである。
「インターハイでも目指すか?」
「はい」
雑談が終わり三崎は練習に戻る。
「コーチ……」
「みなまで言うな」
コーチには全てお見通しであった。わたしは強くなりたい、怪我をした足首を見つめる。走れたら誰よりも速く走りたい。
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