第3話 想いでのレコード

 昼休み、担任に職員室に呼び出される。


「来た来た、待っていた」


 担任の先生はコソコソと話し始める。


「お前、進路は私立の文系だったな」

「はい……」


 はて?何か嫌な予感がする。


「生物を取ってみないか?」


 わたしは無言でプルプルすると。


「気持ちはわかる、三年なのに理系科目を取るのは無駄だよな」

「萩原先生ですね」


 そう、あの有名な萩原先生だ。通称、雌ヒョウの萩原、男女平等の名のもとに、それはもう酷い人物らしい。


「定員割れですか?」

「みなまで言うな、そこは大人の事情だ」

「……」

「推薦は欲しくないか?」


 わたしは腕を組、困っていると。


「もう、萩原先生に紹介してしまった。嫌がらせが怖くなければ承諾してくれ」

「わかりました、少し時間を下さい」


 昼休みに担任に呼び出されるのは大抵、悪い事だ。わたしは頭をかきながら教室に戻る。


***


 放課後、わたしは陸上部のブロックにきていた。三年生が引退して、わたしが本来は部長のはずであった。リンチの怪我でリハビリに一年間かかり仕方なく部長を譲った。練習が始まり。わたしはコーチと共に練習を見守る。


「三崎は目立ちますね」


 コーチが同意を求めてくる。サッカー部からの移動だが確かに才能はある。


「ええ、輝いています」


 漢らしい筋肉美は今が最盛期かもしれない。ふふふふ、頬が熱くなる。


『キュンです』


 後ろから、萌音の声が聞こえる。萌音は一年の頃から陸上部の練習を見ていた。


「恋スキャナーが『キュンです』と反応しました」

「ななな、何を言う……」

「年下ですか、お主も好きよね」


 わたし達が三崎を見ていると手を振ってくる。


 ああああ、心が熱い、これが抱き締めたい気持ちなのか……。


***


 わたしはポテチを食べながら、ベッドに横になる。ここでレコードがかかっていればセレブ気分だ。そうだ、萌音の家にレコードプレーヤーがあるか聞いてみよう。


 早速、電話だ。


『あ、萌音元気してる?』

『そこそこだよ』

『で、頼みがあるが、大丈夫?』

『恋愛とお金以外ならOKだよ』

『要件は簡単、レコードプレーヤーが欲しいのだよ』

『ほー今、人気のレコードプレーヤーが欲しとな』


 世の中、そんなにレコードがブームなのか。確かにスマホで簡単に音楽が聴ける時代にレコードはあっているな。うんうんと納得する。正に社会心理学者ですな。


『あーアホな事を考えている間だ』

『もう、それでレコードプレーヤーは有るの?』

『勿論、ない』


 無いか……。


 ま、普通はないな。大手通販会社の密林で買うか悩むな。明日、またあの雑貨屋に行ってから決めよう。


 そして翌日、今日は会議らしく午前で授業が終わった。雑貨屋に行くには丁度いい。確か名前は『ペパーミント』である。わたしは自転車をコギコギして向かう。到着すると、玄関にある季節の花のガーデニングが印象的である。


『カラン』


 ドアを開けるとアンティークな音が鳴る。


「いらしゃい」


 品の良いおばあさんが奥から出てくる。


「また、来てしまました」

「ありがとよ」


 わたしがもじもじしていると。


「今日はビートルズを聴かないかい?」

「はい」


 その言葉に迷いは無く凛と答える。おばあさんがレコードを取り出してレコードプレーヤーを起動させると曲が流れ始める。


 ジョンレノンは愛と平和を歌ったらしい。その歌声は優しく。心に残るのであった。わたしは何を悩んでいたのだろう。怪我で挫折をした事、その後の三崎との出会い。


 ぐしゃぐしゃの考えがまとまっていく。


 やっぱり、レコードプレーヤーを買おう。ビートルズの曲終わる頃にはわたしは決めていた。そう言えば、この店にはレコードプレーヤーは売っていないのかな?わたしはおばあさんに聞く。


「ゴメンね、このプレーヤーは思い出の品なの」

「はい……」


 わたしが複雑な気分でいると。


「ここはこの曲をかけましょう」


 取り出されたのはクイーンであった。それは今までの曲とは違っていた。それはレコード盤の入った箱は何でも願いが叶う魔法に思えた。わたしがもぞもぞとしていると。


「思い出、聞きたい?」

「はい」


 クイーンの曲に乗せておばあさんは思い出を語り始めた。おばあさんは昔、おじいさんと遠距離恋愛をしていた時に東京からのお土産が色々なレコードであったと語るのであった。


 バブル経済でレコードが廃れていく時代に二人は愛し合っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る