終着駅の契約
霞 芯
第1話 終着駅
光友保険 新人営業の
リストにある〝小山田大介〟には、二重丸がつけられていて、何度か電話をしたが、固定電話は、いっこうに出ず、携帯も載っていなかったので、
〝それならば〟と足を使い飛び込み営業に出向いた。
時刻は、夕方の5時を回っていた。
朝から、動き回っているものの、成果もなく、
先月も知り合いに入ってもらった1契約のみで沙智は焦っていた。
疲れがでたのか、ほとんど人の居ない車両で、
夏の夕日に照らされ、ウトウトとしていた。
小一時間たったであろうか?トントンと肩をたたかれ、ハッと沙智は目をさました。
「ここで降りないんですか?この先は、まあ車庫みたいなものですよ」と身長180はあるであろう、
美少年の高校生に声をかけられた。
沙智は、「えっ もう終点ですか?終点にいきたかったのですが!」
高校生は、「終点みたいなものですよ、まだ先にいくんですか?」そう
沙智は、「行きたい駅は〝山神車庫〟なんです」そう言うと高校生は、頭をかきながら、
「う〜ん やっぱり行くんだ?行き先は、〝小山田〟家でしょ」そう言い放った。
沙智は、びっくりして「どうして解ったんですか!
超能力者ですか⁈」とただでさえ大きい目を、更に大きくした。
高校生は「いや、俺、幽霊だからわかるんですよ」
そう言って沙智の反応を見た。
沙智は、顔が青ざめ、口を真一文字に結んだ。
高校生は、その反応を見て、堪えきれずに笑いだした。
「冗談ですよ!山神車庫には、俺の家 小山田家しかないんですよ!だから、終着駅まで行く乗客は、100%うちのお客さん!小山田一樹っていいます」
いたずらそうに、笑っている。
沙智は、安堵したのか、座席から滑りそうになった。
沙智は、慌てて名刺を出して「三笠沙智です。保険の営業をしてます!小山田大介さんは、お父さんですか?」と聞いた。
一樹は、「いや、うちの爺さんだよ!親父は去年死んだ、今は、爺さん、お袋、あとは、妹と弟が一人ずつだよ」
沙智は、「それは、お父様残念なことで‥」
と聞かない方がいい話を聞いてしまって後悔した。
列車は、沙智と一樹だけを乗せ、薄暗くなった
〝山神車庫〟についた。
一樹は「10分くらい歩くけど」とだけ言い、長い足で足速に山道を進んで行った。
沙智は、置いていかれないよう、息を切らせてついていった。
10分程あるくと、コンクリート剥き出しの3階建の建物に着いた。
一樹は、「俺ん家、ここ」そう言って門についているテンキーに番号を入力し、門を開けた。
普通の家の1.5倍はあるであろうデカい玄関の扉を開けて「爺さん!お客さん!保険屋さんだって!」と声を張り上げた。
やや暫くして、奥から、車椅子の白髪だが、覇気のある老人が出てきた。
最初、沙智は睨みつけられている印象を受けたが
「どこの保険屋じゃ?」と言葉を発すると、
パッと和やかな老人に変わった。
沙智は「光友保険です」と答えると、老人は、
「光友か?それなら話を聞こうじゃないか」と中に招きいれてくれ、リビングに通された。
一樹が帰ってくると、まだ小学生であろう、妹と弟が抱きついていた。
沙智は、その子達の反応に少し違和感を覚えた。
リビングの席に着くと老人〝小山田大介〟は、
「和子さん!お茶を頼む!」と強い口調で奥にいるであろう一樹の母に命じた。
その次に、沙智に向かい「私は、スクラップ工場を経営していてな、30人は使っている。去年息子をなくしてな、後継だから、本当に困った。もし今、わしに、万が一があれば、残った家族はさぞ困るであろう、保険を見直さなければと思っていたんだ」
そう言うと、奥から一樹の母、和子がお茶とお菓子を持って現れた。
沙智には、和子が青ざめているように見えた。
和子がお茶を置く手は震えていた。
沙智にお茶を出す時に、少しこぼしてしまい、大介は、すぐさま、そばにあった杖で大きな音をだし、
和子を、睨みつけた。
和子は、「すみません!」と震える手で慌てて拭いた。
大介は、すぐさまにこやかな老人に変貌し、保険の話をはじめた。
保険の契約の話はスムーズに運んだ。
沙智はこんな経験は初めてだったが、研修で学んだ事を生かし次から次へと契約を進めていった。
大介のみならず、家族全員の生命保険をとりきめた。
それだけではなく、今度、上司を連れてきなさいと会社の保険の見直しの話までしてくれた。
大介は、「一樹!こっちに来て、書類に目を通しなさい!万が一の時はお前が引き継ぐんだ!」
そう強い口調で一樹を呼び出した。
一樹は言われるがまま、ソファーに座り、書類に目を通した。
最後に、何か〝指〟で書類をなぞった。
そして、一樹は、なんとも言えない悲しそうな表情で、沙智に訴え出るようにも見えた。
沙智は、沢山の契約を取り、弾む足取りで駅に戻った。
駅につくと、薄暗い駅には、駅員が1人いるだけであった。
駅員は、沙智を見て「お前さん、〝小山田家〟に行っておったんだろう」と話かけると、沙智は遮り、
「知ってますよ、この駅には、〝小山田家〟しかないの!」と〝驚かせないですよ〟と言わんばかりに
答えた。
駅員は、「1人で〝心霊スポット〟にいくなんて珍しいな、大概、大勢でくるもんだが?」
沙智は、「心霊スポット⁈」と聞き返した
駅員は、「小山田家の廃墟だよ!知らんのかねあの事件、当主の爺さんが保険金目当てに、 〝一家惨殺〟だよ、手のものをつかってな!
逮捕されて10年はたつかな?そろそろ死刑になったころかもな?」
沙智は、意味がわからなかった
「だって私今、契約貰ってきたとこなんですよ!
ほら!契約書だって!」
そう言って鞄から契約書をだすと、
契約書には、血文字で
〝恨みはらしてくれ〟
と書いてあった。
終着駅の契約 霞 芯 @shinichi-23
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