俺たちに親はない

 二人にはエッセンシア王国軍から訓練官が派遣され、付きっ切りで指導を行うことになった。

 ここでも龍也と大河は訓練プランを細かく聞き出し、自分たち流にプランを改変させた。

「まず座学だ。この世界での戦闘、そして魔王と魔物について詳しく教えてくれ」

「座学が終わるまでは、基礎体力と魔力錬成のみを並行して行う」

「武器を使った訓練や魔法の技術的訓練は、次の段階だ」

 神の加護によって兄弟の身体能力は著しく向上していた。体を鍛える必要はない。必要なのは体を慣らす・・・・・作業であった。

 魔力についても加護の恩恵はある。しかし、そもそも魔力を使ったことがないので、錬成や制御の方法を一から学ぶ必要があった。

「若者、特に優秀な若者は基礎を学ぶことを嫌うものだがな」

 訓練官の一人、クレイモア大尉は感心して言った。

「優秀な道具でも使い方を知らなければ役に立たない」

 顔色も変えずに龍也は訓練に専念した。

「俺達には頭と体しか頼るものがなかったからな」

 大河も余念なくランニングや登攀訓練に向き合った。

 一か月後、兄弟のペースについていける兵士は一人もいなくなった。

「……聞かせてもらっていいか?」

 訓練合間の休憩時間。肩で息をつきながらクレイモア大尉は尋ねた。

「なぜそれだけ努力ができる? 何のために戦う?」

 報酬のため、そう言うのは簡単であったが、クレイモアが求めているのはそういう答えではなかった。

「俺たちに親はない。こどもを育てきれず、育児放棄していなくなった」

「こども二人を育てる親はいくらでもいるだろうに……」

「俺たちの一つ下には、4人の妹がいる」

 妹は一卵性の四つ子であった。2年の間に6人のこども。両親は育児ノイローゼとなり、経済的にも破綻した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る