勇者も死ねばただの死体

「確かにそれなら食い逃げ・・・・はなさそうだな」

 エリカは二人の申し出を了解した。

「こちらも契約解除の権利を留保したい」

 国家と傭兵の立場は対等だ。傭兵側はそれ以降の報酬を放棄する代わりにいつでも契約を解除できなければ立場を確保できない。

「言っていることはわかるが、えらく慎重だな」

 若い割にと、法王はつぶやいた。

「戦う以上死ぬ危険はあると覚悟するが、死ぬつもりでは戦わない」

 龍也は平然と言い返した。

「もう一つ。俺たちは二人で一組だ。どちらかが先頭不能になった段階で、残りの契約は解除する」

 これにはエリカも文句は言えなかった。もともと二人召喚されたのがイレギュラーだったのだ。勇者も死ねばただの死体だ。

 その他、訓練、調査、探索、戦闘、一切の作戦行動に関する費用は国家負担ということを合意して、兄弟は契約書にサインした。

「私は君たちが恐ろしいよ」

 まだ兄弟の能力を知らないうちから、法王は戦慄を覚えていた。

「十六歳の若者が、これほど生死について冷徹に語れるものかね」

「生死の境目に立つのは初めてじゃない」

 今まで黙っていた大河が口を開いた。

「戦争に出るのは初めてだけどね」

 エリカはなぜか沈黙するしかなかった。

「……よかろう。では、君たちの力を測らせてもらおうか」

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