条件交渉

「ふん。腹は据わっているようだな。では、報酬とは何だ?」

 法王の覚悟を感じたのであろう。龍也は第二の理由について尋ねた。

「財宝と異世界転移の術。それを差し上げましょう」

 聞いて、龍也の目がぎらりと光った。

「異世界転移の術を教授してくれるのか? 俺たち・・・は世界間を好きに行き来してよいということだな?」

「そうだ。魔王討伐後であれば、自由な往来を二人に関して・・・・・・は認めよう」

「物資の移動は? 世界を超えて物資を運ぶことは許されるのか?」

「身に着けて運べるだけの量なら許可しよう。それ以上は事情と相談による」

 龍也はちらりと大河を見た。

「もっともだな。よかろう」

 大河が口を開いた。

「この世界が存在するという事実は? 元の世界で公開してよいのか?」

 エリカは眉を寄せた。

「できれば秘密にしたい。公開して騒ぎになれば、どちらの世界にとっても面倒なことになるだろう」

「同意する。いつまで隠し通せるかはわからないが」

 異世界の存在については、双方可能な限り秘匿するということで意見が一致した。

「報酬の財宝だが、どれだけのものを渡すつもりだ?」

「国家予算のひと月分。貴金属で渡そう」

 これは答えを用意していたのであろう。エリカは迷いなく言い切った。

 この国、エッセンシアの国家予算がどれだけなのか兄弟はもちろん知らなかったが、調べればわかることである。嘘はつけない。

 龍也の隣で大河は忙しく考えを巡らせていた。

 日本の国家予算は約100兆円あまり。ひと月分なら9兆円である。規模の小さい国、たとえばシンガポールの国家予算なら約9兆円。ひと月分は7千億円になる。

「この国の人口は?」

 大河の耳打ちを受けて、龍也は質問を投げた。

「5千万人ほどだ」

 日本の4割、シンガポールの10倍弱。ざっくり考えて4~7兆円の報酬とみてよいか?

「ふむ。額は納得した。次は義務・・について確認したい」

「義務とは?」

 不審気なエリカに龍也は説明した。

 報酬を受けて戦う。それはすなわち傭兵になれということだ。傭兵とは愛国者の集団ではない。負け戦に付き合う義務はないのだ。

「旗色が悪ければ逃げ出すというのか?」

「報酬の半分を期間報酬、残り半分を成功報酬とする。契約期間は1年。期限までに魔王を倒せれば報酬の満額を受け取る。1年後に倒せていなければ、半額と転移魔法の伝授を受け取るものとする」

「そちらが手を抜かぬ・・・・・という保証は?」

「期間報酬は均等月払い。努力が足りないと見たら、そちらからいつでも解約できることにすればよい。もちろん魔法の伝授も必要ない」

 龍也の受答えは滞りがない。まるであらかじめ考えておいた・・・・・・・・・・・かのようだ。

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