ラッキースケベ!
「う~ん……とりあえずは、橘さんの部屋の前で、色々話しかけてみるしかないよなぁ……」
「どうしようかしら。一応、生徒会の仕事の一環として、橘すみれさんの住所は先生から教えて貰ったけれど……」
華蓬文理学園の放課後。校舎の角を隔てて独り言を呟いている湊月と志穂。両者とも、同じ悩み事に溜息を吐きながら呆けて歩いていた。
同じ角に向かってほぼ同等の歩幅で進んでいれば、当然の事死角と死角で鉢合わせする訳で、
「とにかく今日も行ってみるしかないよなぁ……うわぁ!!」
「とにかく行ってみるしかないのかしら……きゃあ!!」
計らずとも運命的なタイミングで、似たような文言を呟きながら接触した二人の体。志穂は、持っていた紙束を盛大に地面にバラまいてしまった。
「ごめんなさい!大丈夫ですか!?」
「痛たた……こちらこそすみません!不注意でした……って、あれ?湊月?」
「志穂!?ごめんボーっとしてた!大丈──」
そう言いかけたところで言葉を詰まらせて、瞬時に明後日の方向へ視線を吹き飛ばした湊月。
その姿を見ていた志穂は、不思議そうに見つめながら小首を傾げた。
「……?どうしたの湊月?」
「えっと……あ、いや……その……」
「なーに?何で全然私の方を見てくれないの?」
「いや……見てないというより見れないが正しいというか……」
「そういえば最近、放課後はすぐ帰ってるわよね?私が話しかけても『ごめん急いでる!』の一点張りで。もしかして……私の事、避けてるの?」
「いや……それには事情が……それより、それをどうにか……」
「ハッ!話題を逸らされた!!話題も視線も逸らされてる!やっぱり私の事嫌いになっちゃったの!?ねぇどこがダメだった?私頑張って治すから!」
ぶつかった勢いで転倒した姿勢そのまま、くりっとした目尻に若干の水滴を浮かべる志穂。しかし、そんな様子を視界の片鱗にも置いていない湊月は、やがて顎の先端と肩が平行になりそうな程、自身の首を捻りに捻り倒していた。
「ダメなのは今のその姿勢!俺だって志穂の可愛いその顔を直視したいから、なるべく早めにどうにかしてくれると嬉しい!!」
「可愛い!?す、すぐそういう事言って!!──うん?姿勢?私の姿勢に何か……」
そう言いながら、ゆっくりと視線を下に落としていく志穂。
そして、自分が今どんな状況かを理解した時、白い新雪のような肌色を呈した頬が──否、顔全体が燃え上がる烈火のごとく、熱と共に朱へと染まっていった。
実はこの二人が衝突した際、湊月はヨロけただけで転倒などはしていなかったのだが、志穂の方はしっかりと後方に転倒して尻もちをついていたのだ。
以前の、校則規定よりも長いスカートを着用していた志穂だったなら、これでも特に何の問題も無かったのだろう。しかし、
それはつまり、何を意味するかというと……
「あわ、あわわわわ……」
足の付け根まで見えてしまいそうな程捲れたスカート。それによって露になっている、引き締まりながらも肉付きの良い、まるで芸術作品のような美しい太ももの全容。
そして何よりも、この光景を目撃した者がいたのならば間違いなく瞳が釘付けになってしまうであろう、純白の
「……み、見た?」
「なに……が?」
「絶対見えたよね?」
「何にも?ていうか、うん!人目についても恥ずかしい物じゃないよ!白は無難にセンスが良いし!!」
志穂からの問い詰めに、焦って口早に喋る湊月。だが、話している内容は動線に火を付けるようなもので、
「やっぱり見えたんじゃないっ!!!」
「だって!そりゃ見えるでしょ!!むしろ、見たい欲望に負けずに、すぐ視線を逸らした俺の行動を褒めてほしい位なんだけど!?」
「一回見てたら変わらないじゃない!!……ていうか、見たいの?」
「ま、まぁ……健全な男子高校生だったら、美人な幼馴染のラッキースケベイベントには立ち合いたいものでしょ……」
「ふ、ふーん?そっかぁ……見たいんだ?」
湊月の言った言葉に対し、目に少量の涙を残しながらも、扇情的な表情を浮かべる見かけだけギャルな幼馴染。
ゆっくりと立ち上がった志穂は、そのまま指先で垂れ下がっているスカートを捲り、下着の横のラインが見えるか見えないかの際どい位置までたくし上げて、挑発的な笑みを浮かべた。
「ふーん。そっか。まぁ湊月がどうしても見たいって言うなら、見してあげない事も無いけど?」
「うん。じゃあ見たい」
「そうよね!湊月は私に、そんな事をお願いできる程の度胸無いもの──ふぇ?」
「だから、見たいって。どうしても見たいから、見して?」
「え、いや、あの……えぇ!?」
少しからかってみたつもりが、予想外の返事に困惑する志穂。しかし、湊月の表情は一切変わらず……いやむしろ、真顔で真剣に赤面する幼馴染の事を見据えていた。
「お願いしたら見してくれるんでしょ?」
「えっと……それはその……ちょっとからかってみただけで……」
「自分の言葉に責任持てないんだ?」
「~~~──ッ!!」
逆に、真顔で問い詰める側へ回った湊月。
あまりにも欲望に忠実すぎる男に、本気で戸惑いながらも満更でもない表情を浮かべる志穂は、
「じゃ、じゃあ……捲るからね?」
そのまま、スカートの裾を少しずつ上げていく。
「ねぇ志穂」
「な、なーに?」
「志穂はさ……」
「う、うん……」
「変態なの?」
「うん!…………は?」
湊月からのあまりにも直線的な質問に、一度は勢い良く肯定してしまった志穂。しかし、その言葉の意味を咀嚼してみると、自分がとんでもないカミングアウトをしている事に気が付いてしまった。
「ここ学校の廊下だよ?誰か来るかもしれないのに……」
「そ、それはっ!湊月が、その……下着を見たいって言うから……」
「冗談に決まってるじゃん」
「……ッ!!もうっ!!!湊月のバカッ!」
「ごめんって。ほら、プリント結構散らかっちゃてるよ?一緒に拾おう?」
「わ、分かってるわよ!もうっ!全くっ!!」
ちょっぴり意地悪な笑みを浮かべる湊月に、完全にご立腹な志穂様。
文句を言いながらも、床に散らばった書類を集める志穂と湊月だが、その片方──男の方には、先程までの余裕な笑みは一切感じられず、奥歯を噛み締めて溢れそうな羞恥の感情を何とか抑え込んでいた。
「……バカは志穂だよ。もし他の誰かに見られたら、どうすんの……」
「ん?湊月何か言った?」
「ん~ん。何にも」
志穂には聞こえないよう小さな声音で、目の前の可憐すぎる幼馴染に僅かな苦言を漏らす湊月であった。
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