プロの土下座
「おっつかれさまで~す!」
「「あ、お疲れ様です!」」
入ってきたのは、ESEの社員にして
クリーミーピンクの鮮やかな髪色に、茶色味を帯びた瞳。細身のスラっとした体型であり、髪色以外は非常に黒スーツと相性が良い、大人びた雰囲気の清廉な女性である。
いつも通り結んだポニーテールを左右に振りながら、軽やかな足取りで志穂と夏音の元へやって来る。
「いやぁ~いつも通り仲が良いですねぇ!悪魔ちゃんと冬夏ちゃんは!」
「あはは~そうなんですよ~!本当にいつも気が合うんです!!」
「天先輩がウチの事好きすぎるんですよね~!」
「え~?冬夏ちゃんだって、私の事大好きじゃ~ん!」
「あははははは!」
「あははははははははは!」
「ブフォッ!!天春てぇてぇ!!!!!!ぐはっ!!!!」
そう言い放ち、盛大に鼻血を吹き出しながら床に頭をぶつけた笹木唯。否、ただのVオタク。
この女性、自身がマネージャーを務めている二人の
「笹木さん!?いつも通りですが、一応大丈夫ですか!?」
わなわなと今にも死にそうな痙攣を起こしている笹木に、少し不安気な表情で近寄る志穂。
「は、はい……何とか命だけは。危うく尊死するところでしたが……」
「尊死……?きょうび聞いた事無いですが……まぁ大丈夫なら良かったです」
「ていうか今更なんですけど、悪魔ちゃんと冬夏ちゃんって同じ学校の、それも先輩後輩なんですよね?えっと、確か
鼻血を拭きながら、そう疑問を口にした笹木
現実と仮想の世界ではそもそもの人生が違う。VTuberは、
「それに関しては大丈夫ですよ唯さん!ウチらは、
「そうです!私達にも先輩方のように、ESEとしてのプロ意識がありますから!」
「ぐはっ!仕事熱心な推しヤヴァイ!鬼萌える。もう死んでもいい。いや今死にたい!!」
「はいはい、ありがとう唯さん。ていうか今日は、何か用事があって呼び出したんでしょ?」
体をくねくねと、少々気持ちの悪い身悶え方をする笹木に対し、呆れながら口を開いた夏音。
「はっ!そうでした!!」
笹木は、瞬時に我に返ると、一度咳払いをして黒いスーツを整えて話し始める。
「実はですね、この度四期生がデビューする事になりました!!」
「え、凄い!!てか、ウチに初めての後輩だ!!」
「そうじゃん!冬夏ちゃん初めての後輩だ!!おめでとう!!」
「うわ~!ほんとに嬉しい!!!何かウチが緊張するんですけど!!」
後輩
しかし、そんなほのぼのとした仲睦まじい空間に浸りながらも、ふとある疑問が浮かんでくるわけで。
「てかさ、それだけだったらわざわざ事務所まで来る必要無かったんじゃ……?」
ぽつりと、頭に浮かんだ率直な疑問を口にする夏音。
それを聞いて、笹木は何とも居たたまれない表情を浮かべた。
「えっと……えぇ、まぁ。それでけでは……無いのですが……」
「どうしました?まだ要件があるなら、それも一緒に……」
そこまで言ったところで、瞬時に志穂と夏音の視界から笹木が消える。
刹那、二人の視線がその速さに追いつく頃、笹木は地面に突っ伏しており、見事なまでの土下座が完成されていた。
「その四期生の二人、実は二人と同じ高校なんです!!」
「「……えええぇぇぇぇええ!?!?」」
無言のタイミングまでもぴったりと同調しながら、天をつんざかん絶叫を部屋中に響き渡らせた二人。
「またですか!?これで三人目ですよね!?」
「奇跡というかなんというか……ウチらの世界って狭すぎ……」
「で、でもまぁ……可能性としてはある話よね、うん。ていうか、それなら別に笹木さんが頭を下げる話では無いと思いますが……?」
そう言い、集中する二人の視線。もちろんその先にあるのは、体をコンパクトに折り畳んだままの笹木である。
「じ、実は……その……」
「……ん?」
恐る恐るといった様子で、ゆっくりと話す笹木。あまりの声の小ささに、志穂と夏音は耳を近付ける。
「その子が不登校で……それはまぁ良いのですが……」
「はい」
「不登校の上に引き籠りなんですよ……」
「はいはい」
「つまり……家からほとんど出れないタイプの子でして。ただ、まぁ……デビューする時は、一度この事務所に来てもらって、打ち合わせと顔合わせを行うのがルールなんですよ……」
「……ん、んん?」
同じ方向に小首を傾げる二人。
そのまま、数秒の無言の後、ゆったりと頭を上げた笹木は、つむじが天井と平行になるや否や、再度物凄いスピードで頭を床に擦り合わせながら言い放った。
「その子、連れ出してきてください!!!!」
「「……はにゃ?」」
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