2章

これは2章のぷろろーぐ!?

 小野寺湊月おのでらみつきはごくごく平凡な高校二年生の男子である。いや、学校の四大美女である幼馴染の志田志穂しだしほと、一つ学年が上の天宮夏音あまみやかのんから同じ日に告白を受けるまでは、平凡であったと言うべきだろう。


 早朝七時に目を開けたら、昨日まで清楚であったはずの幼馴染が突然ギャルになっていたり、昨日までギャルであった先輩が急に清楚になっていたりという、見事な属性アイデンティティ反転をしている二人から告白を迫られるなんてイレギュラー中のイレギュラーだ。もはや、イレギュラー以外の何でもない。


 趣味のゲームや漫画、心の底から推しているVTuber二人──天使悪魔あまつかでびる春秋冬夏しゅんしゅうとうかのタペストリーが飾られている自分の部屋で起床した、いつも通りの──いや、何やら既視デジャブ感のある光景を前にボーっと前を眺めている湊月。


 平凡な少年を様々なへといざなう事になった張本人達は、今日も相変わらず元気に口喧嘩をしていた。


「何で私が一緒に登校しようと湊月の家に来たらあなたがいるんですか!!天宮先輩!!」

「ウチだってみっつんと一緒に学校行きたいなって思ってたんだし!てか、シホっちの方が後に来たんだからそっちが引いてくれない?」

「私は事前に今日一緒に学校行くって約束していたので!それに、朝起こして一緒に学校行くのは幼馴染って相場が決まってるんです!あとシホっちって呼ぶな!」

「ウチも昨日一緒に行こってライン送ってたから!てか、まだその幼馴染って部分擦ってるんだ?知ってるシホっち?関係性っていうのはね、長さじゃなくて深さなんだよ?」

「長いし深いんです!私と湊月の場合はそこが比例するので!!……ていうか、どういう事湊月?先輩からも連絡来てたの?」

「そうだよみっつん!シホっちからも誘われてたなんて聞いてない!!」


 懐疑な表情を浮かべて湊月の方へと視線を向ける二人。眠たい目を擦っていた湊月は、充電コードに繋がっている携帯へと手を伸ばす。


「……あ、ほんとだ。二人からメッセージ来てる。えーっと、昨日は確か布団に潜りながらアニメ見てたから、そのまま寝落ちしちゃって確認してなかったんだ。ていうか、何で今日に限って二人とも一緒に登校しようと……?」

「それは……何となくよ?」

「そうそう。何となく明日はみっつんと学校行きたいな~って」

「ふーん。同じ日に全く同じ事考えるなんて、二人とも仲──」

「「仲良くない(わ)!!」」

「そんな食い気味に否定しなくても……」


 湊月が言い終わる前に、勢い良く言い放った志穂と夏音。完全な調和を見せる二人の阿吽の呼吸に、湊月は少々の苦笑いを浮かべた。


「そ・れ・で!湊月は結局どっちと一緒に学校行くわけ!?」

「それな!!ちゃんとハッキリしてみっつん!」

「いやハッキリって言われてもなぁ……」

「簡単じゃない!『志穂が好きだから、俺は志穂と学校に行くさ。二人の世界を邪魔しないでくれるかい?女狐ガール』って、そういえば済む話よ!」

「おいちょっと待て。え、何?志穂の中の俺の印象って、そんな少女漫画に出てきそうな感じなの!?」

「みっつんはそんな事言わないし!」

「そ、そうですよね?俺は、少女漫画に出てくるキザな西洋イケメンみたいな感じじゃ無いですもんね?」 

「みっつんなら、『俺は夏音と学校に行くぜ!それを邪魔する奴らは誰であろうとぶっ潰す!!』って言うもん」

「いや言わないですよ!?某週刊誌の主人公が結構序盤に言いそうなセリフ言いませんから!!はぁ……朝からとんでもない疲労感が……」

「ぷぷっ。シホっちぜ~んぜんみっつんの事理解わかってないね!」

「湊月がそんな事言う訳ないでしょ!何にも理解わかってないのはあなたじゃないですか!」


 ドヤ顔で志穂を煽っている夏音に、志穂は睨みつけながら言葉を返す。


「え、何?二人とも本気で俺が言うセリフだと思ってるの……?」


 湊月は、二人からの見え方があまりにも自身のイメージと相違していた為、志穂と夏音が関わってきた小野寺湊月という男が本当はドッペルゲンガーか何かじゃないかと本気で困惑してしまった。世界に三人はそっくりな人がいると聞くが、ここまで近場だったら街中かどこかですれ違っていそうなものだ。


 しかし、訳の分からない状況に頭を抱えていた湊月だったが、手に持っていた携帯の液晶に一件の通知が映ったところでハッと我に返り、そのメッセージに返信しながら口を開いた。


「……てか、俺今日二人とは一緒に登校できませんよ?」


 その一言で騒がしかったこの場が一瞬で凍り付く。ピタッと話すのを止めた二人は、まばたききをしながら湊月をじっと見つめる。


「……え?」

「えっと……だから、俺は今日二人とは一緒に登校しないっていうアレで……」

「ん……?あー!もしかして多田君との約束があった?仲良いもんね湊月!」

「いや、翔馬家も通学路も全然違うし」

「じゃあ何で~?」

「二人よりも早く連絡をくれた人がいて、その人と行く約束をしてたんです。俺としてもちょっと心配だったから──」


 タイミングが良いのか悪いのかインターホンの音が部屋に響き、応対した妹の未羽が玄関を開けた。訪ねてきた人物と未羽の会話が、遠目ながら聞こえてくる。


「え、えっと……あの、お、小野寺君って……いますか?」

「あ、お兄ちゃんなら二階の自分の部屋にいますよー!もしかして待ち合わせですか?」

「は、はい……えっと……」

「どうぞどうぞ上がっちゃってください!可愛い女の子に起こされた方がお兄ちゃんも嬉しいと思うので!……あ、でも。まぁいっか!どうぞ~!」

「ふぇ!可愛いなんてそんな……!えと、その、お邪魔します……」


 何かを勘付いた未羽だったが、面白見たさの好奇心で来訪者を家の中へと招き入れてしまった。


「ねぇ、湊月」

「ねぇ、みっつん」

「ヒッ!は、はい……?」


 背筋が凍える声音で湊月の名前を口にした二人。口元は笑っているが、その目には全く表情が滲んでおらず、湊月は思わず返事を上擦らせてしまった。


「一緒に行く子って、まさか女の子?」

「えっとー……ま、まぁ?」

「ウチらの誘いを断って他の子と一緒に行くんだ?ふーん」

「いやぁ~、俺としては誘われてるのを知らなかったから断るも何もない気が……」

「ん?」

「い、いえ……何でも……」


 二人からの圧力で完全に委縮してしまった湊月。


 このままでは来訪者の命までもが危ないと感じた湊月は、せめてこの二人と対面させないよう部屋への入室を阻止するべく急いで立ち上がったが、時既に遅し。


 ドアノブがガチャリと回されて、そこからフワッとした茶髪の少女が入ってくる。そして、その姿はしっかり志穂と夏音の瞳に焼き付けられてしまった。


「湊月君。お、おはよう……ございます……」


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