ネットリテラシーの大切さ
「……ッ!間に合うかこれ!?」
翔馬に適当な言い訳をつけてもらい早退した湊月は、額に汗を滴らせながら今朝通ってきた道を足早に戻る。心臓の鼓動が体全体に激しく響き、携帯を握る手には力がこもった。
ツイッターに書かれていた幼馴染のマンションの住所。両親は仕事柄海外での赴任が多く、志穂が高校生になったのをきっかけに海外へと住所を移した。その際志穂はこの街から出る事を拒んだ為、今はマンションの一室で独り暮らしをしているのだが、そのマンションの住所と志穂の住んでいる部屋の階層がツイッターには晒されていたのだ。
──ま、まぁ……まだこれが志穂の住所って決まったわけじゃないし……
ただ、万が一という事もある。タイミング悪く志穂は今日学校を休んでいたし、何よりも湊月の心がザワザワと騒がしく非常に嫌な予感がするのだ。お見舞いって事で家に行って、何もなければそれで良いし、もし何かあった時は──
「俺が……守らなきゃな」
ぼそっと一人でに呟いた。
生まれてこの方喧嘩なんてした事が無いし、誰かを守れる程の何かが無いのは重々理解しているが、本当に不審者が来た場合は警察が到着するまでの肉壁位にはなれるだろう。それで十分だ。志穂に何かしらの危害が加わらなければそれで良い。
「てかほんと……つくづくネットって怖いな」
「この、ほんとに少し映ってるだけの窓外だけで位置を特定とか……有名な人にはプライベートが存在しないじゃん。こんなに早く調べ上げるとか、バカみたいに暇人な奴か、キモイ程粘着質な変態だろ……絶対」
どっちにしたってマナー違反どころか、普通に抵触行為なのは言わずとも知れているが。
昨今、インターネットの広大な海には様々な情報がぷかぷかと漂流している訳だが、画面の向こうには同じ人間がいるという意識というか、ネットモラル的な感覚が段々と希薄になりつつある。面と向かって話している時には絶対に口にしない発言や態度を、ネットの先の人間には平気でやってしまう。相手の表情や仕草が分からないから、犯罪スレスレの事でも平気で出来てしまう。
これは湊月がインターネットを使うにおいて何よりも意識している事であり、そもそも他人とのコミュニケーションで当然の事だとは思うが、自分がされて嫌な事言われて不快に思う事は絶対に書き込まないし、無粋に自分の関係ない事柄に対して首を突っ込まない。友達間で言う「死ね」と、文字で見ず知らずの相手に言う「死ね」はその意味合いがまるで違うし、正義という名目を振りかざして微塵も関係していない問題に我が物顔で首を突っ込んでいくのは偽善そのものだ。
「って言っても、昔は俺も似たような事してたけどなぁ……」
さすがに暴言を赤の他人に送ったりはしていないが、好きなゲームで知り合ったネッ友に距離感を間違えて強い言葉をかけてしまったり、今思い返してみれば何が面白いか良く分からないような身内ネタで相手を不快にさせてしまった経験が、湊月にも少なからずある。こういった失敗から湊月は多くのネットリテラシーを学んだわけだが、この時離れてしまった仲間達はもう二度と戻ってくる事は無い。
湊月は、丁度交差点の赤信号に足を止められたタイミングで、現状を把握する為にツイッターを開いてタイムラインを更新した。
すると、一番上に目を疑うようなツイートが。
「……は?でびるちゃんの家に生配信しながら凸る?何言ってんのポン酢サーモンさん!この人ヤバいって!!」
ポン酢サーモンというのはツイッター上で前々から湊月と関わりがある人物で、同じ『ESE』の
ただ、仲が良いかと言われると少し微妙である。というのも、ポン酢サーモンは自分の推しメン以外には大分過激派なオタクで、わざわざ悪意のある切り抜きを作ってフォロワーを稼いでいたり、推しがコラボした男性配信者に誹謗中傷とも取れるコメントやリプライを大量に送り付ける──つまるところアンチと言われる行為をしている為、あまり良い印象が無いのだ。湊月とはこれといったイザコザも無かったし一応FFではあったのだが……
「そいうえば前にちょっと話した時、住んでる地域が近いかもって言ってたな…………うぇ!?生配信同接一万四千人!?一、二、三、四、五……六人の大の大人が何やってんだよほんと!!」
画面上で意気揚々と喋っているポン酢サーモンと思わしき眼鏡の男と、その周囲でガヤガヤと騒いでいる五人の男達。外見だけの印象だけで言えば、全員大人しそうでこんな過激な事をやりそうなタイプには見えない為、人というのは分からないものだ。
『あともう少ししたら例の住所に着くので、視聴者の皆さんは楽しみに待っててくださーい!wwあの人気VTuberの素顔、必ずこの画角に収めまーす!』
心の底から楽しそうに迷惑行為の宣誓をしているポン酢サーモン。みるみると増えていく視聴者。その数はもうそろそろ二万人に上ろうかとしている。
『まぁ普通にインターホン鳴らしただけじゃ絶対玄関を開けないと思うので……じゃーん!この大量のトンカチで窓をぶち破って侵入しまーす!』
「はぁ!?こいつら正気!?もうそれは普通に犯罪だろ!」
画面いっぱいに映し出される大量のトンカチ。
その凶器の数々を見て、湊月の動悸は爆発しそうなまでに鼓動を響かせた。
「……ッ!?ヤバいなこれ。とにかく急がなきゃ!!」
急いで携帯をポケットにしまった湊月は、見覚えのある道を突っ走り、幼馴染の住んでいるマンションへと向かった。
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完全にモチベが低迷してました!ごめんなさい!
更新再開します!どんどん更新していくので、是非VTuber×属性反転ラブコメをお楽しみください!
また、★での評価や感想よろしくお願いします。
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