2人の行先は

「はぁ~楽しかった~!!疲れたけど!!」

「ゲーセンではしゃぎすぎましたね」

「もう足が疲れてガクガクだもん~」

「俺は体の疲労というよりは精神的な疲労が……」

「何か言った?」

「いえ何も……」


 グッと睨まれて縮こまる湊月。


 接吻キス寸前で何とか理性を利かせて頬に変えた湊月と、それを見て不服そうに唇を尖らせていた夏音は、目一杯楽しんだゲーセンを後にして帰りの帰路についていた。


 最初はあからさまにご機嫌斜めといった様子の夏音だったが、歩きながらゲームの話をしている内にすっかりと機嫌が戻り、今では鼻歌まで歌っている。これは夏音がさっぱりとした性格というべきなのか、それともゲーマーのさがなのか。


「そういえば先輩知ってます?今日モンハンシリーズの最新作が先行配信されるの!」

「もちろんだよ~!もう何か月前から楽しみにしてたか!!」

「ですよね~!帰ったらすぐやりましょ!!帰りにエナドリ七本買って帰るつもりですから!!」

「二日間徹夜するつもりなの?ほんとやめな?そろそろ健康にくるよ?」

「何を言ってるんですか先輩!モンスターとは言え命を狩りに行くんですよ?自分が命かけなくてどうするんですか!!」

「ハ……ッ!ど、どうしてウチはそんな大事な事に気が付かなかったんだろう!」


 愕然とした表情で何かに気付きを得た夏音。もちろんモンスターというのはゲームの中の話で、そこに命の灯は無いのだが、重度なゲーマーともなると二次元物かどうかはあまり関係ないらしい。


「くっ……ウチは明日もオールで学校に行く事になるのか……」

「学校……?ハンターが行くのは広大な狩猟マップであって、そこに学校なんて要素は……」

「学校サボるのはマジでやめといた方が良いと思うけど……未羽ちゃんとシホっちにぶっ殺されちゃうよ?」

「すぅー…………怖い」

「それに、シホっちに怒られるのみっつんだけじゃないんだからね?みっつんが徹夜でゲームして学校休んだ日、何故かウチが詰められるんだから!」

「そうなんですか?ま、まぁ……それは連帯責任って事で……」

「いや圧倒的自己責任でしょうが!百歩譲って一緒にゲームしてたなら分かるけど、みっつんが一人でランク回してたのにウチが怒られるんだから!監督不届ふゆき責任だーって!」

「それ結構理不尽なんじゃ……」

「そうだよ!!だからちゃんと学校は行きなさい!!」

「分かりました……エナドリは四本に抑えます……」


 空がだんだんと茜色に染まっていくにつれて、湊月と夏音の他愛のない雑談が盛り上がる。


 心底楽しそうに話す二人は、傍から見たらカップル以外の何物でもないのだが、二人の少し歪な関係性はきっとこの距離感が一番落ち着くのだろう。


 だが、ずっとこのままではいられない。


 湊月は、紅に染まった空を空虚に眺めながらそう思う。いつもはあまり深くは考えないようにしているが、夏音や志穂と落ち着いた環境で話していると考えない訳にはいかない事柄。


 贅沢な話だし最低なのは重々承知だが、湊月にとっては二人とも同じくらい大切で大好きな人なのだ。その先の答えを求める事は、もはや残酷だとすら感じる。


──俺には、最高に魅力的な二人から好かれる程の良さなんて無いのに。


 同じ好きなのに、どうしてその言葉にはいくつも意味があるんだろうか?そもそも、この二文字に自分がここまで悩まされるとは想像もしていなかったのだが。


 寡黙に何かを考え込む湊月の──大好きな年下の男の子の横顔をぼーっと見つめる夏音。


 一秒、また一秒と進んでいくうちに夏音の胸の中に『好き』という感情が溢れ出す。きっとこの胸の痛みは、その溢れた好きが心臓を圧迫してしまっているからだろう。


 今何を考えてるのかな、とか他の女の子の事考えてたらヤダなとか、世界一かっこいいなとか、世界一可愛いなとか。


──あーあ、ウチって本当にみっつんの事大好きなんだなぁ……


 思えば、人を好きになったのなんて生まれて初めてかもしれない。だから本当ならこれが好きなのかどうかも分からないはずなのだが、多分これは本能とかの類なのだろう。目の前の男の子と手を繋ぎたいし、キスもしたいし、その先だって……


「「あの……」」


 はからずも声が重なった二人。


「あ、ごめんなさい。先輩からどうぞ」

「え、いや……みっつんからで良いよ?」

「本当に俺が言おうとしてたことはしょーもないので!!」

「そ、そう?じゃあえっと……最後に行きたいところがあるんだけど……」

「行きたいところ?」

「うん。みっつんと一緒に行きたいところ」

「全然大丈夫ですけど、どこ行くんですか?」

「それは──」


 それを聞いて、静かに驚愕した湊月。だが、その答えはもちろん承諾で、


「じゃあ……行こっか」

「は、はい……」


 そのまま二人は、狭い路地へと曲がり、その先に広がるラブホ街へと歩みを進めていくのであった。

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