FPSと先輩は油断大敵!?

「うわっ!距離減衰!!」

「ちょ、何でエペの時はあんなにエイム良かったのにこんなガバルの!?」

「きゃー!後ろのスナからめっちゃカバーされるんウザいって!」

「よしっ!ポジ取りも良いし、これは俺のハイスコアまで待ったなしですよ先輩!」

「ウチだってリス無しで五キルしてるんだから!」


 互いにPSを最大限に活用し、はしゃぎながらスコアを重ねていく二人。


 FPSにおける専門用語が激しく飛び交う中、身体全体で画面に映る敵にエイムを合わせる。


「やばい後十秒!!」

「くっくっくっ!今回は俺の勝ちですね夏音先輩!!」

「ま、まだ!まだ勝負は終わってないんだから!」


 まるで悪役とそれを倒しに来たヒーローのような会話を繰り広げながら、夏音は秒単位の時間で湊月とのスコア差をじりじりと埋めていく。


 だが、依然優位に立っているのが湊月なのは変わらず、少し差が埋まってはまた元に戻されるの繰り返しで、夏音の額には嫌な冷や汗が滲む。


「これがPS差ですよ!!これで俺の五十三勝五十二敗ですね!」

「くっ……!!」


 もう完全に勝負はついたかと思われたその時。


 湊月の画面外から、突如として現れた敵の姿が。


「なっ!?足音なんてしなかったのに!!」


 意識外からの急襲に、見事虚を突かれる形となった湊月。その敵が放つ激しい弾幕に、操作しているキャラの体力ゲージは凄い早さで削られていく。


 そしてタイムアップのわずか二秒前。湊月の画面には、『You are dead』という英文が赤黒のフォントで映し出された。


「噓でしょ!?」

「……っ!これで、逆転!!」


 このシューティングゲームでは、敵のAIに銃殺キルされる事なく連続で倒せればボーナススコアが加算され、逆に敵AIに銃殺キルされたらリスポーンする代わりに持ちスコアが減ってしまうという仕組みで、増減するスコアの数字自体はそこまで大きいものではないのだが、如何いかんせん思い切り競っていた二人のスコアだ。最終盤での湊月のデスは勝敗に大きく響いてくるわけで……


「やったぁ!!逆転勝利~!!」


 二人の画面上に映し出される今回の総合スコア。どちらも過去ベストを更新しているが僅かに夏音のスコアの方が上だった。その差は、たったの五十点程。


「う……噓でしょ……てか足音しない敵なんて今までいました!?」

「みっつんこの新しい機種になってからプレイしてないの?アップデート要素の一つに沈黙者サイレンサーっていう足音がしない敵が追加されてるんだよ」

沈黙者サイレンサー?くっそー!そのアプデさえ知ってれば……っ!」

「でもあれみっつんの反射神経なら、集中してれば返せたと思うよ?画面外から現れてから撃ってくるまでに少し時間差ラグがあるし」

「それはまぁ……確かに……」

「最後勝ったと思って油断してたんでしょ~?もー、戦場で油断なんてけしからんぞ全く~」

「うぅ……先輩に何でも一つお願いできる権利がぁ……」


 右手をグッと握りガッツポーズを決める夏音と、膝から崩れ落ちて嘆き悲しむ湊月。完全なる勝者と敗者の構図がここに完成していた。


「さてさて~何のお願いを聞いて貰おうかな~?」

「俺にできる範囲内で……」

「え、じゃあ付き合って?」

「そ、それは……」

「あはあ!嘘々。ていうか、お願いする内容は最初っから決めてたの」


 笑いながら、施設内のあるスペースを指差した夏音。


「もしかして……」

「うんっ!一緒にプリクラ撮ろ!!」







「本当にこれがお願いで良いんですか?」

「うん!ていうかこれが良いの!!みっつん今までいくら誘ってもプリクラ撮ってくれなかったじゃん?恥ずかしいとか、陽キャの文化すぎて怖いとかで」

「え、えぇまぁ……。ここに入る時も若いJK達の視線が怖かったですし……」

「いやみっつんも若い高校生だけどね?」

「この気まずさ、志穂とランジェリーショップに行った時みたいで……ハッ!!」


 流れであの時の冷たい視線を思い出し、つい口に出してしまった湊月。


 すぐに口元を両手で抑えてそれ以上を語らなかったが、当然誤魔化せるわけもなく、夏音はジト目で口元をムスッとさせて、


「ふ~ん?シホっちと下着見に行ったんだ~?」

「え、いや……それはその……」

「あれだけプリクラは断固拒否って感じだったのに、シホっちとは軽々と下着屋さんに行くんだね~?あー可愛かっただろうなぁシホっちのブラ」

「うぐっ……あのその、何かごめんなさい……」

「ん~?別に気にしてないよ~?ぜーんぜん!これっぽちも気にしてないから!!」


──それ絶対気にしてるやつ……


 死んでも口にはできないが、いくら女性経験が乏しい湊月でも分かる夏音の不貞腐れ方。口元はニコニコとしているのに目に表情が無いのが一段と怖い。


「それじゃ撮ろっか」

「は、はい!」


 流行りの韓流の曲が流れる中、『外にあるブースにコインを入れてね♪』という今の雰囲気に似つかわしくない明るい女性の声が響いた。


「このプリ五百円だから──」

「俺が払ってきます!!!」


 夏音が財布を取りだそうとしたところで、間髪入れずに飛び出していった湊月。


 だが結局、お金を入れたは良いものの、コイン入れの上に設置されている撮る前の設定を決めるパネルの使い方が分からず、居た堪れない表情で夏音を呼んだ湊月であった。

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