AV女優の握手会に行きたい!

 六限の終了を知らせる低い音色のチャイムが、今日も平和な時が流れた華蓬文理学園の校舎全体に響き渡る。


 全ての授業が終了した生徒達は、窮屈なタイムスケジュールからの自由を獲得した達成感と開放感に満ち満ち溢れていた。


 帰り支度を整え始める者や部活動のシャツに着替え始める者など、皆が活発に動き出す中、湊月と翔馬の二人は一枚の画像をスマートフォンの液晶に映し出し、それを覗き込むような形でピタッと静止していた。


「……これが、例のヤツ?」

「お、おう。ヤバいなんか緊張してきた……」


 ほんのり冷や汗を額に滴らせながら、生唾を呑み込む翔馬。


 二人が突き刺すような視線を向けている液晶画面に映っているのは、件名に『握手会抽選に関する結果です』と書かれた未開封の一通のメールである。


「そんなガチガチに緊張する程か?」

「そりゃするだろ!ファンとの交流イベントを今まで一度もやってこなかった朝倉まなちゃんの、キャリアで最初で最後かもしれない握手会だぞ!?むしろ、何で湊月がそんな平然としていられるのかが分かんないんだけど!?」

「え、いや……俺はそこまで……」

「今回の応募の二人分、うち一枚はお前のなんだぞ!?鋼鉄の精神なんか?」


 真面目な顔で感嘆の声音を漏らした翔馬。そんな友人を見て、湊月は引き気味に頷いた。


 朝倉まなという人物は、端的に言えばセクシー女優──広く伝わっている名称はAV女優という素晴らしい職業に就いている、童顔なルックスにアンバランスな巨乳・巨尻という、男性はもちろん女性にも大人気なインフルエンサーである。


 健全な男子高校生である多田翔馬は、ファンクラブに入会している程の熱心な朝倉まなファンであるのは明白だが、親友の強い懇願によって半分無理矢理動画サイトで朝倉まな作品を購入する事になった湊月は、最初こそテキトウに眺めていただけだったが、次第に彼女の絶大な演技力、表情、繊細な所作しょさに惹かれていき、今では次々にリリースされていく作品を購入しているのは勿論、朝倉まな個人で行っているYo〇Tubeチャンネルも逐一拝見している程にはファンと化していた。


 だが、ファンクラブに入会したり、直接的な交流イベントに参加したいと考える程入れ込んでる訳では無い湊月にとっては、翔馬が顔を強張らせるまでに緊張しているというのは中々理解に苦しむものなのだ。


「……大手タイトルRPGの、発売前ベータテスターの選考に当たるようなものなのか……?」

「う~ん。ちょっと違う気がするけど、まぁ多分そんなとこだな!そこに俺達二人で行けるかもって話なんだから、そりゃ緊張もするだろ?」

「それに関してはさ、一人で行くのが恥ずかしかったから俺を連行しようとしただけでしょ」

「あ、バレた?まぁでも、湊月もハマってたんだから悪い話じゃないだろ?」

「……ま、まぁ、うん」

「ふぁぁああ!手汗ヤッバいわ!まなちゃんに会いてぇ……あわよくばそのまま持ち帰られてぇ」

「下心見え透けすぎだろ……ていうか、早く開封しないと帰りのホームルーム始まっちゃうよ?」

「確かに。じゃあ……開くぞ?覚悟は良いな?」

「あ、あぁ……」


 翔馬のテンションにてられ、自身にも謎の緊張感が纏い始める湊月。そんな、全神経が一通のメールへと向けられていた二人は、教室の入り口辺りから波状に広がっているクラスメート達のざわつきにも気付く様子は無かった。


「頼む!!」


 画面を軽くタップして、すぐさまスマートフォンを裏側にひっくり返した翔馬。


「勿体ぶらないで早く見せて!結果は変わらないんだから!」

「かぁー!ロマンが無いね!こういうのは確認するまでがエンタメなの!」

「翔馬のせいで俺まで心臓が痛くなってきてんだから!早くこの状況から解放させてくれ!!エンタメのせいで死にたくない!」

「わ、分かったよ。いくぞ?せーのっ!」

「なーにしてんの~?」


 抽選結果が表示された画面を上に向けようとした時、湊月の肩の辺りに腕をのせて、上機嫌な声音で話しかけてきた人物が。


 突然、鼻腔を微かにくすぐった品の良い香水の匂い。そして、背中にグッと押し付けられた、暴力的なまでに豊かで柔らかいそれら。艶やかな黒い髪が、湊月の頬を撫でた。


「夏音先輩!?」

「やっほーみっつん。それと……友達?」

「あ、えっと!多田翔馬って言います!湊月とは一年からの仲で──」

「おっけーただしょうねっ!」

「ただしょう……?」

「そんな事より何で夏音先輩がここにいるの!?」

「え~?それはもち、みっつんに用があるからだよ!外から呼んでたのに、ぜーんぜん気付く様子無かったから入ってきちゃった!」

「呼んでたんだ……全く気付かなかった。ていうか、用事ですか?それは放課後でも良いんじゃ──」

「だーめ!緊急なんだから!そっこー連れて行く!あ、ちょっとみっつん借りていくね~!」

「いや待って!?今から帰りのホームルームがっ!それに朝倉まなの抽選結果も!!」

「ば、ばか湊月!!声がでかいって!!」

「朝倉……?それは良く分かんないけど、帰りのホームルームはまぁ何とかなるっしょ!ただしょう先生に上手く言っといて!よろ!」

「え……えぇ。分かりまし、た?」

「ありがとー!んじゃ、みっつん行くよ!ウチ怒ってるんだからね!!」

「た、助けて翔馬……ぐへっ!」


 必死に助けを乞う眼差しを翔馬へと向けた湊月だったが、普段から運動をしない非力な少年は夏音によってワイシャツの首の部分を引っ張られてしまい、ズルズルと教室外へと引きずられていったのであった。


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あぁ……気付いたらタイトルから本文まで、全て意味の分からない怪文章を作っていました……

湊月と翔馬の、男子高校生二人のお話の時って、思いつく限りのおバカなネタを書きたくなってしまうので困りものです笑


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