カップルが一緒に下着選ぶのって普通なの?

──やばいやばいやばいどうしようッ!気まず過ぎるッ!!


 周囲の女性からの冷たい視線に耐えながら、心の中で絶叫する湊月は、一刻も早く志穂が試着を終えることを祈っていた。


──ランジェリーショップって、こんなにもアウェイな場所だったのか……


 ちらっと、店内に陳列されている色とりどりの下着を目に入れて、勝手に恥ずかしかしくなりすぐに俯く。


 現在湊月と志穂が入っているお店は、女性物の下着を取り扱っている──所謂いわゆるランジェリーショップと呼ばれるお店である。


 白や黒、赤黄青などの様々な色相を呈した下着の類々──否、ブラジャーとパンティーのセットが至る所で売られており、それもただ色合いが異なっているだけでなく、派手な柄や落ち着いた柄、しっかりとした布地のものや透け透けのもの等、その種類は湊月が想像していたよりも圧倒的に豊富であった。


 その為、最初こそ興味本位から周りを見渡していた湊月だったが、すぐに女性達からの皮膚を貫通しそうな鋭い視線を感じ、見るからに縮小してキョどっている現状だ。


 落ち着かない様子で突っ立ていた湊月が、明らかに不審だったのだろう。若い女性の店員が、様子を窺うように声をかけてきた。


「あの~、何かお探しですか?」

「ひょえ!?い、いえ。志穂……じゃなくて、人を待ってます!ごめんなさい!」

「あぁ!彼女さんを待っていらしたんですね!失礼致しました~うふふ」

「いや……あの、彼女とかでは……」


 そこまで言ったところで、わざわざここで訂正したら逆に不自然なのではと感じた湊月は、否定も肯定もしないまま口を噤んだ。


 謎の謝罪はしてしまったが、やんわりと掛けられていた嫌疑は晴らせたらしく、何故かニコニコと笑みを浮かべた店員はどこかへ行ってしまった。


 心臓が握り潰されそうだった緊張状態から解放されて、ふぅ……と軽い溜息を吐いて一息入れる湊月。すると、次は後ろの試着室から声が。


「湊月、今店員さんに話しかけられてたね」

「うん、ビックリした。下着を覗きに来た変態だと思われたのかな?」

「あはは、そうかも。湊月がエッチなのは当たってるけど、下着を物色しに来れる程の気概なんて無いのにねぇ……」

「た、確かにその通りだけどさ……別にエッチでは……」

「それに、カップルとも間違われてた。あんまり強く否定していなかったようだけど……?」

「あーなんか、思い切り否定しても、じゃあ何でここに居るんだって突っ込まれそうだったからさ」

「ふーん…………」

「それがどうしたの?」

「ねぇ湊月。カップルだったら、彼氏が彼女の下着を選んでてもおかしくないよね?」

「……?ま、まぁ。それはそうかも、だけど……」

「それで、湊月と私はカップルと間違われた。つまり、周囲からは恋人に見えていると……」

「……ん?うん……うん?」


 イマイチ志穂の言っている事が理解できていない様子の湊月。ただ、何となく直感でマズい予感を感じてその場を離れようとしたが、もうその時は既に遅し。


 背後からスーッと伸びてきた手に腕を掴まれて、抵抗の余儀なく志穂が入っている試着室へと連れ込まれた。


「うわっ!!何!?」

「しーっ!あんまりうるさくすると、お店に迷惑になっちゃうよ……」

「あ、ごめん……って、おかしいよ!?何で俺が試着室の中に!?」

「だって、湊月も言ったじゃん……カップルで下着を選ぶのは普通だって」

「いや俺は、おかしくないって事に同意しただけで、普通とは……それに、俺達カップルでは無いじゃん……?」

「周りからカップルに見られてたらセーフよ多分!もはや誤差だわ!」

「そんなテキトウな……!」

「ちょっと待って!」


 慌てた湊月は、勢いで志穂の方に振り向こうとしたのだが、その体の動きを志穂の手によって制限されてしまった。


「その……一呼吸だけ気持ちの整理を……」

「気持ちの整理って、何の……?──まさか志穂、今下着姿なの!?」

「う、うん。…………よしっ!良いよ湊月!一思いにこっち見て!!」

「無理!!さすがにそれは無理だって!!」

「えいっ!!」


 むりやり湊月の体の向きを反転させて、自身の方へと向き直させる志穂。


「……ッ!!」


 瞳いっぱいに映った志穂の姿に、湊月は息を呑んで言葉が付いてこなかった。


 薄い黄色の、中央に可愛らしいリボンの付いたブラジャーは、決して派手とは言えない柄だが、布地に紐で模様が付いていて生地の薄い、健全な男子高校生が悩殺されるには十分過ぎる刺激的な様相であった。


 下腹部を覆っているブラと同色のパンティーは、世に言うTバックという種類であり、太ももの付け根がほんの少し露出する際どさの下着だ。


 ただでさえ艶麗えんれいであられもない姿であるのにも関わらず、志穂の耳まで朱に染まった扇情的な表情と、恥ずかしがりながら遠慮気味に胸と下腹部辺りに手を添えている志穂の仕草によって、湊月の理性のたがを軽々と飛び越えてしまう。


「ど、どうかし……ら」

「えっと……その、うん。似合って、るよ」

「むっ。湊月、ちゃんとこっち見て?」

「ガチできついって!ちゃんと……見たから……」

「ち、ちゃんと見ないなら、他の下着にこのまま着替えるから!!」


 恥ずかしさで脳が沸騰している志穂は、自分でも何を言っているのかあまり理解できていないまま、まるでビッチのような振る舞いと発言をしてしまう。


「何言ってんの志穂!?」

「ッ!!本気なんだから!!」

「ちょ、脱ごうとしないで!?か、可愛いよ!!凄く好みなデザイン!!」

「ほ、本当!?これ、似合ってるんだ……」

「ク……ッ!俺は、一体何を……」

「アニメの主人公みたいなセリフを、下着屋さんで言われても……」

「良いから早く解放してくれると助かるんだけど!?」

「そ、そんなに嫌がられちゃうと、すこーし傷付いちゃうな~?そんなに出たいの?」


 無言で激しく首を上下に振る湊月。


「なら、後一か所どこか褒めて?そしたら離してあげる!」

「褒める……?えっとー、志穂の胸に丁度良いサイズで可愛い!」

「丁度良いサイズ……?サイズは自分に合ったものを買うからそれは……って、私の胸が小さい事を言ってるの!?」

「そ、そう!!」


 志穂と同じく、混乱して自身の発言が良く分かっていない湊月は、半ばテキトウに返事を返してしまった。


「……ッ!ちょっと気にしてるのに!湊月の変態!!」

「何で!?」


 涙目の志穂に外へと放り出された湊月は、荒く息切れしながら手で頭部を仰いで熱を冷ます。


「はぁはぁ…………ふぅ。小さいサイズが可愛いって言うのは……本音なんだけどな……」 



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