第41話 チャレンジ
照は大地とたっぷりやりたい放題イチャイチャした後、ようやく自宅に帰還した。空はすっかり暗くなっていた。
照が玄関からリビングに足を踏み入れると、即座に父親と母親の姿が目に入った。
「ただいま帰りました」
照は腰をきれいに折り畳み、1礼した。
父母ともに、視線だけ向け、おかえりの1言もない。
『いつも通りですね』
照は胸中で独り言をつぶやいた。ここまでは彼女の想定内だった。
「お父様、お母様!少しお話があるのですが、宜しいでしょうか?」
照は勇気を振り絞って、両親の様子を窺いながら声を掛けた。
彼女の声を聞き、父親は眉を顰め、母親はわずかに目を開いた。
「なんだ?どのくらい時間が必要だ?」
父親が低い声を発した。
「わかりません。お父様、お母様次第です」
照は真剣な眼差しで父親を見据えた。
正直、彼女は胸中で逃げ出したい気持ちを感じていたが、無理やりそれを押し殺していた。
「・・・わかった。取り敢えず、テーブルに座って話を聞かせなさい」
父親はいち早くリビングに面した場所に居を置くテーブルに腰を下ろした。
照と母親もそれに倣い、ほぼ同時にテーブルに座った。
母親は父親の隣に座り、照は彼らの向かい側に座った。
「まず、ありがとうございます。お時間をとっていただいて」
照は前置きとしてお礼の言葉を述べた。
それから、息を吐いて呼吸を整えた。
「以前、お話に出た彼氏に関することですが。やっぱり、私は別れたくありません」
照は決して視線を逸らさず、両親に強い目力で訴えた。
「それは私達の指示に従わないということか?」
父親は険しい顔つきで、冷淡な声を発した。彼の額には多くの皺が寄っていた。
「はい。そうです」
照は内心、父親の冷たい声色で恐怖を覚えながらも、決してその感情を表に晒さなかった。堂々と返答をした。
「な、なにをふざけたことを言ってるの!」
母親はものすごい剣幕で立ち上がり、テーブルを強く叩いた。彼女はじっと照を見下ろしていた。
「本気なんだな?」
父親は苛立ちを隠せない母親に一切目もくれず、目を細めて照に真っ直ぐ視線を走らせていた。その表情からは不思議な迫力が存在していた。
「はい。申し訳ありませんが、これだけは譲れません。私は彼氏さんである大地君と別れたくありませんので!」
照は覚悟を示すために勢い良くイスから立ち上がった。それからわずかに瞳を潤ませながら父親と視線をぶつけた。
照と母親が立ち、父親だけが座った状態になった。
数秒の沈黙がその場に流れた。
「・・・好きにすればいい」
父親はテーブルに軽く両手をついて、立ち上がった。その直後、流れるようにテーブルから階段へと移動した。
「ち、ちょっとあなた!」
母親は動揺した様子をあからさまに露わにしていた。彼女は父親の言葉が納得できないようだった。
「いいんだ。好きにやらせればいい。娘の人生なんだからな。それに、それなりの覚悟もあるみたいだしな。目を見ればわかる」
父親は階段の前で立ち止まり、前を向いた状態で言葉を紡いだ。照や母親からは父親の表情は視認できなかった。
「ああっ。それと。彼氏とやらには、敬語を使うなよ。昔に、誰にでも敬語を使えと教えた。だから、お前には敬語を使う癖が染み付いている。だが、彼氏ぐらいにはそのルールが当てはまらなくていいだろう」
父親はそれだけ残すと階段を1段1段上がっていた。
「認めていただいてありがとうございます」
照は父親の背中に向けて誠意を込めて頭を下げた。父親には感謝の気持ちしかなかった。
「ち、ちょっとー!許嫁はどうなるのよ〜〜」
一方、母親は光速でリビングを駆け抜けて焦った口調で父親を追い掛けていってしまった。
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