第39話 本当の気持ち


 後日。大地は自身が取った講義終了後、大学の正門の近所で佇んでいた。彼はただ周囲を観察していた。


 そのせいか、正門をくぐる学生からは変な目で見られていた。


 だが、大地は全く意に介さず、ひたすら観察を続けた。彼はある人物を待っていた。おそらく、その人物はいずれ友人と一緒にこの正門に差し掛かるだろうから。


 

 数10分後。大地の見立てよりも早くその人物は姿を現した。しかも、予想通り友人の渡辺と一緒だった。2人は雑談に勤しみ、時折笑顔を見せていた。


「照!」


 大地はタイミングを見計らい、その人物の前に立ち塞がるように現れた。


「!?」


 そう、大地が待っていた人物は元恋人の照だった。彼女ために、正門付近で待機していたのだ。


「どうしたの?森本君。いきなり前に現れて」


 照の友人である渡辺は不思議そうにしていた。


 一方、照は居心地が悪そうにじっと俯いていた。彼女の両目は前髪で隠れていた。


 大地は『予想通りだ』と胸中でガッツポーズした。照は友人に別れたことを伝えていなかった。その上、友人の前では決して逃げ出さなかった。


「渡辺先輩、申し訳ありませんが、照をお借りしてもよろしいですか?」


 大地は絶好のチャンスだと直感し、申し訳なさそうに渡辺の様子を窺った。


「いいよ!だって、森本君は照の彼氏さんだもんね!」


 渡辺は笑顔でサムズアップし、快く受け入れた。彼女は未だに大地と照が付き合ってると思っている。


「そういうことだから。またね!」


 渡辺は照の返答を待たずに、駆け足で2人から遠ざかってしまった。


 大地と照は共に沈黙したまま互いに向き合っていた。


「大学のカフェに行こうか。・・・来てくれるよね?」


 大地は勇気を出して、重い重い沈黙を破った。


 照は決して目を合わせなかったが、静かに首を縦に振った。





 大地と照は大学に設置されたカフェに身を置いていた。


 時刻は16時だが、今日は不思議と席は2つ程しか埋まっていなかった。


「久しぶりだね」


 照は全く視線を合わせない照に真剣な目を向けながら、固まった静寂な空気を破った。


「・・・そうですね・・・」


 照は下方に視線を走らせながら、ぼそっとつぶやいた。彼女からは全く覇気が感じられなかった。別れた彼氏と一緒にいる時間が辛いのだろうか。


「照・・・。俺に正直に話してくれないかな。何で別れを切り出しのか。それと、本当に俺のことが嫌いになったのかを」


 照は多少なりとも羞恥心を覚えながらも、勇気を振り絞って問い掛けた。

 

「・・・それはあなたのことが嫌いになったからです。前と理由は変わっていません・・・」


 照の目は完全に前髪で隠れているため、正確な表情を読み取ることは叶わない。


「そうか。そうなんだ。・・それなら、俺は悲しいよ」


 大地は何も置かれていないテーブルに視線を移した。


「・・・すいません」


 照は申し訳なさそうな口調であった。


「だって、俺は照のことが大好きだから」


「えっ!?」


 照の目がようやく前髪の中から登場した。


「俺は照のことが好きだから告白したんだ。必ず自分らしさを出せて、ありのままをさらけ出せる人だと思ったから。一緒にいて心地よかったから。だから、告白したんだよ」


 大地は真剣な目で照を見つめた。彼の目は決して照の顔を解放しなかった。


「だから、俺は照を諦めきれない。本当に。俺は照が必要なんだ」


 大地は正真正銘の本当の気持ちを照に目掛けてぶつけた。


「なんで、なんで・・・そんなこと言うんですか・・・」


 照は全身をわなわな震わせていた。声も歯切れが悪く、震えたものに変わっていた。


「なんでそんなことを言うんですか〜」


 照はようやく顔を上げた。彼女の瞳からは大粒の涙が多量に流れ、唇は小刻みに震えていた。


「ど、どうしたの?だ、大丈夫?」


 大地は照の突然の涙に驚きが隠せなかった。


「嫌いになるわけないじゃないですか〜。私、私だって大地君のこと大好きなんですから〜〜」


 照は嗚咽を混じらせながら、何度も服の裾で涙を拭った。だが、涙は止まる気配が無かった。


「私は別れたくなかったんです。本当に、だってどうしようもないぐらい大地君が・・っ好きなんですから」


 照は止まらない大粒の涙を抑えるように両手で顔を覆った。


 大地は戸惑いから何も声を掛けられなかった。それほど照は取り乱していた。


 カフェの店員や席に座る学生は怪訝な目で大地と照が座るテーブルを眺めていた。


 だが、大地はその視線を全く知覚せず、我に返って照の元に急いで歩み寄った。

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